今回は『映画/インサイド・マン』でネタバレと独自解説を含む戯言を。主演級の大物俳優がバチバチと火花を散らした演技合戦を展開するも、物語そのものは淡々としていて地味な印象すらある作品ですな。
評価が大きく分かれますし、その意味や考察なども人によって異なる作品ですので、あくまで個人の見解ということでご容赦を。
インサイド・マン
2006年 アメリカ
キャスト:
デンゼル・ワシントン
クライヴ・オーウェン
ジョディ・フォスター
ウィレム・デフォー
クリストファー・プラマー
キウェテル・イジョフォー
キム・ディレクター
ジェームズ・ランソン
サマンサ・アイバース
ケン・レオン
監督:スパイク・リー
脚本:ラッセル・ゲワーツ、アダム・エルバッカー
ネタバレ無しのあらすじ
マンハッタン信託銀行にて銀行強盗が発生。
交渉役としてフレイジャー刑事(デンゼル・ワシントン)が担当となるも、主犯のダルトン(クライヴ・オーウェン)がキレ者で交渉は難航。
一方、当銀行の会長アーサー(クリストファー・プラマー)は敏腕弁護士のマデリーン・ホワイト(ジョディ・フォスター)を呼び出し、秘密の依頼をする。
果たして犯人はどう切り抜けるつもりなのか?そしてアーサーの秘密とは?
・・・といった流れの賛否両論作品。
キャストで戯言
主演はデンゼル・ワシントン、対する犯人グループのリーダーはクライヴ・オーウェン。
実働部隊の隊長にウィレム・デフォーがいたかと思えば、クリストファー・プラマーの依頼を受けたジョディ・フォスターが横から首を突っ込んでくる・・・という、これでもかの豪華っぷり。
しかしそれぞれ主演級の俳優でありながら、デンゼルとクライヴ以外はやや出番控え目。そしてクライブは基本覆面&サングラス(笑)思わず「もったいなっ!」と思ってしまう使い方ですな。俳優重視で映画を選ぶ方であれば、このメンツだけでご飯三杯は喰えるかと。
さらにマニアックな映画ファンが「おっ?」と反応するであろうジェームズ・ランソンやケン・レオンも出演しているのですが、おそらく一般の方々は「誰それ?」でしょう…。
単純なクライムサスペンスではない
知名度の高い俳優が多数出演しているうえに、『予測不可能な衝撃の結末!』などという安い煽りをつけられているせいで、ついエンターテイメント色の強い『クライム・サスペンス』だと思って手を出してしまったライト映画ファンも多いかと。
しかし本作は派手に犯人とやりあうような犯罪アクションではなく、最後に回想で全ての答えを見せてくれるような明快サスペンスでもなく・・・登場人物の人間性に焦点を当て、ジリジリと物語が展開するドラマ寄りのサスペンス。
となると、やれ「地味」だの「爽快感がない」だの「結局なんだったの?」など、『期待外れ』の感想が多くなるのも止む無し。
なにせカーチェイスもアクションもありませんし、発砲シーンもリアルでは1発のみ(しかもそれもフェイク)。派手な動きと言えば、せいぜいデンゼル・ワシントンとクライヴ・オーウェンがもみくちゃになって階段を少し転げ落ちる程度。
カメラワークもカット割りもエンターテイメントというよりドキュメンタリーに近く、スパイク・リーならではの独特な表現もあり、痛快な犯罪モノを期待した方には肩透かしも良いところでしょう。
そして『予測不可能な衝撃の結末』に関しても、『犯人は人質に紛れて脱出。主犯格の男は1週間銀行内に潜んだのちに脱出』だけを答えとしてしまえば、ツッコミどころ満載なうえに予測不可能でもなんでもない。なにせ冒頭と時折挟み込まれるシーンで全て予測できてしまいますから。
衝撃の結末の真意
この映画の『衝撃の結末』の真意は、政治・金融・戦争、そして人種問題の裏に潜む悪。いわば『善悪の定義』にあるのではないかと。
銀行強盗という行為に手を染めた犯人グループは、法律上はもちろん悪。たとえ誰も殺していなかろうと何も盗んでなかろうと、現代の定義では悪人です。
では戦争を利用し、罪なき人々の命を犠牲にして財を成したアーサー会長はどうなのか?その彼から依頼を受け、手段を選ばず目的を果たそうとしたホワイト弁護士は正義なのか?彼女に便宜を図った市長は?フレイジャー刑事は?
主犯のダルトンを義賊的な意味での『善』という見方もできますが、彼も金目当てで他人の財産を奪うわけですから。劇中、彼自身が言っているとおり決して善ではありません。極端な話、本作の主要人物に純粋な意味での『善・正義』の人間は1人もいないわけです。
しかもそこにスパイク・リー監督お得意の人種問題まで織り交ぜてくるのですから・・・。そりゃドカーン!とかバキューン!とかポロリ!を期待した人は評価が低くなるでしょうよ。
超個人的な戯言感想
…というわけで、ダメな人にゃダメ、好きな人には好き…と評価が分かれる『映画/インサイド・マン』、私個人としては十分にアリでした。
完全犯罪系として見てしまえば矛盾と穴だらけのご都合エンドですが、ドロドロとした大人の汚さを楽しむならば話は別。デンゼル・ワシントンのお下品なトークも楽しめますし。
ちなみに物語中に挟まれる、人質達(犯人含む)への『尋問シーン』、これ、ほぼアドリブだそうですよ。どうりで服を脱ぐことを拒否したオバちゃんとの掛け合いが、素のデンゼルっぽかったわけですな。
そうそう、もう1つ。
最後に市長とホワイト弁護士が同席しているところにフレイジャー刑事が現れますが、彼が「これはあなたに」と置いていくペン、ピザに盗聴器を仕込むシーンで出てきた『Amazonで買える盗聴ペン』です。
しかしどこの感想や考察・批評を見てもそこに触れている人はいませんでした。あれれ?めっちゃ面白いトコなのに…。それなのにデンゼルが突き進むシーンを『セグウェイに乗っている』とかバカな事を書いてる輩は多くいるという…。