注!)この『映画/手紙は憶えている』は、鑑賞前にラストのネタバレを知ってしまったら面白さ8割減の映画です。未鑑賞の方は考察も感想も鑑賞後に読む事をオススメします。
今回の1本は『映画/手紙は憶えている』、第二次世界大戦中のホロコーストという重いテーマを扱った作品になります。
いろいろとふざけちゃいけない要素を含む映画ですので、戯言三昧としては苦しい戦いになるのですが…奥深い「残酷さ」がある映画でもあり、個人的には高評価の1本です。
手紙は憶えている
(原題:Remember)
2015年 カナダ・ドイツ
主なキャスト:
クリストファー・プラマー
マーティン・ランドー
ブルーノ・ガンツ
ユルゲン・プロホノフ
ヘンリー・ツェニー
ディーン・ノリス
ソフィア・ウェルス
監督:アトム・エゴヤン
脚本:ベンジャミン・オーガスト
ネタバレ含まないあらすじ
90歳を迎えニューヨークの介護施設で暮らすゼヴ(クリストファー・プラマー)。
眠りから目覚めるたびに最愛の妻ルースが亡くなった事すら忘れてしまうほど認知症が進行していた彼は、施設内の友人マックス(マーティン・ランドー)から『妻が死んだら決行すると約束していた計画』として1通の手紙を渡される。
彼らは共にアウシュヴィッツ強制収容所の生き残りであり、彼らの家族を殺害した戦犯はルディ・コランダーと名を変える事で現在も逃げ延びている。家族の仇であるその男、オットー・ヴァリッシュを探し出し、復讐を果たすのが彼らの計画であった。
手紙は記憶の維持が困難なゼヴのためにマックスがしたためた物であり、それに支えられながらゼヴは『4人のルディ・コランダー』の中から本当の仇を見つけ出す旅に出るのだが…
・・・・といった内容の作品。
キャストで戯言
出ました三冠王、クリストファープラマー。トニー賞・エミー賞・アカデミー賞を受賞するという偉業を成し遂げた名俳優です。
この映画公開時は85歳となる彼ですがその演技力は変わらず。あまりにプルプルしたお爺ちゃんっぷりに、従来のサスペンス映画とは別の意味でハラハラドキドキがこみ上げます。
それ以外にもマーティン・ランドー、ブルーノ・ガンツなど実力派俳優が名を連ねているものの、やっぱりみんなヨボヨボの爺ちゃんなので全体的に絵ヅラは枯れた雰囲気(笑)しかしそこがまた魅力的でもあります。
これといって美男も美女も登場しない本作ですが、やけに可愛い女の子が1人。病院のシーンでキャラメル目当てに上着を探り、手紙を読まされる事になるこの娘は…ソフィア・ウェルスという子役だそうで。
他に出演作品は見当たりませんでしたが、またお目にかかりたいプチ美人でした。
まず始めに…
この映画に関して戯言を垂れ流すにあたって、まず最初に申し上げておきたい事があります。
ユダヤ人の迫害という部分に加えて本作は認知症患者が抱える問題も孕んでおり、内容が認知症の方とそれを支える家族に対して失礼・不謹慎だ…という意見もあります。
当記事内でもアレコレとふざけた表現がありますが、決してそいういった方々を軽んじるわけでも嘲るわけでもありません。ご容赦下さい。
ここからネタバレを含むよ!!
ぷるぷる復讐者
さてさて前置きもしたことですし、戯言からいってしまいましょう。
本作でのゼヴは「標的を探し出し、始末する復讐者」になるわけですが…ちょっとうたた寝しただけで「あれ?ルースは?ルースはどこ?」と奥さんを探し、銃を買うにもぎこちなく、ホテルでペラペラと説明されても何言われてるんだかわからないご様子。
まさかの『周囲に守られ、いたわられる復讐者』という姿に、「がんばれ!がんばれ!」と、初めてのおつかいを見守る親のような気分にさせられます(笑)
1人目のルディ・コランダーはわりと元気でしたが、2人目のルディはかなり弱っていたため『寝たきり老人vsボケ老人』というシュールな対決。3人目はすでに他界。
そのあたりを深く掘ると不謹慎すぎる発言になってしまいそうなので控えますが、とにかくベタな復讐モノとは一線を画す展開は目新しくもあり、なんとも複雑な心境にさせられました。
ここからラストのネタバレと考察を含むよ!!
過去の罪
サスペンス・ミステリー作品は『騙され感』がウリではあるのですが、最初から『予測できない驚愕の結末!!』とか言われてしまうとアレもコレも疑った目で見てしまい、作品そのものの流れを楽しめなかったりも。
本作も予告編やら劇場ポスターやらDVDパッケージで、やたら『最後に驚愕のどんでん返しがあるよ!』的にアピールしていますが、個人的にはそのまま純粋に「ゼヴはこんな状態で無事に復讐を果たせるの!?」という部分に注目したまま物語を追ったほうが面白かったのでは…と。
なんか最近多いですよね。最初から『絶対騙される』『誰も予測できない』と過剰に煽ってくる映画。この風潮はあまり好きではありません。
…というわけで、その驚愕の結末、
ゼヴ自身がオットー・ヴァリッシュだった。
あれこれ伏線が散りばめられているので早めに感づいてしまう人は多いかもしれませんが、コレを事前に予測できるかどうかに関しては置いときましょう。
それよりも掘り下げたいのはマックスの意図。
あくまでも私個人の見解ですが、彼はゼヴに『自分が犯した罪』を思い出させるのが一つの目的であったのではないかと。
介護施設で家族の仇である人間に再会するが、自分がナチスとしてユダヤ人の虐殺に関わっていた事はおろか、昨日喰ったメシすら覚えていない。単純に「復讐」だけが目的であるならば、施設内でゼヴを亡き者にするという選択もあったかもしれません。
しかし彼はそうはせず、友人として彼と接し、使命を与えて外界へと送り出します。
おそらく『妻が死んだら決行すると約束していた』という部分も、ゼヴの認知症を利用したマックスの偽りでしょう。
しかし3人目のルディ・コランダーの息子を殺害してしまった際、電話を掛けてきたゼヴの「殺してしまった」の言葉に対し、マックスは動揺しながらも「まずは警察に電話し…」と指示しています。誤った相手を殺害した…と知る前にです。
ここで「どうだ?何か思い出したか?」とは聞かない。
賭けに近い策略ですので、もう1人の仇であるクニベルト・シュトルムを始末できても、ゼヴは記憶を取り戻す事なく警察に逮捕されただけかもしれない。ゼヴの状態を考えればシュトルムに辿り着く事すらできないまま終わる可能性も高い。
それでもなお、できる限りの手段を駆使してゼヴをシュトルムと対面させたかった。自分が犯した罪を思い出してもらわねばならなかったのでしょう。
(シュトルム殺害の罪で逮捕される結果になったとしても、捜査の過程で彼がオットー・ヴァリッシュである事が明らかになる…という狙いもあったかもしれません)
結果、最も残酷な形でマックスの復讐は果たされる事となります。
たしかにゼヴの息子に罪はありませんし、シュトルムの娘や孫にも罪はありません。これはちょっとやりすぎだ!と思う方もいるかもしれません。
しかし、私個人としてはマックスの行動は共感できます。たしかにそのまま思い出す事なく死ねればゼヴにとっては幸せだったでしょう。しかしそれではいけない。ゼヴやシュトルムの家族に罪はありませんが、殺害されたマックスの家族にも罪はなかったはず。
プルプルしながら頑張ったり、お漏らししてしまったりするゼヴの姿を見てしまうと思わず「可哀そう…」という感情が沸き上がってしまいますが、そう思ってはいけないと思うのです。過去に自分勝手な罪を犯した人間が、歳をとって弱ったからといって「もうお爺ちゃんだから…」と許されるのは違うと私は思います。
手紙は憶えていない
そんなこんなで賛否両論あるとは思いますが、私は好きな作品でした。
しかし…相変わらず邦題がもったいない。いや、『手紙は憶えている』というタイトルはパッと見は悪くないように感じます。それ以上に原題の『Remenber』(思い出す)が素晴らしいんです。
自分が何をしていたのかすぐに忘れてしまうゼヴですが、手紙を読み返す事で再び目的へと向かう。彼が忘れても『手紙は憶えている』んです。しかし邦題はそれだけです。
原題の『Remenber』はそういった意味も含まれた上で、さらにゼヴ自身が犯した罪を『思い出す』という事にも掛かっているわけです。だからこそ全てが幕を閉じてエンドロールが始まる時、一発目にタイトル『REMENBER』の文字が浮かび上がるのですから。
それを単純に、旅の目的を『思い出す』だけに留まってしまうタイトルにしたのは非常に残念。手紙は旅の目的は憶えていますが、彼が犯した罪は憶えていません。
たしかにカタカナで『リメンバー』では印象が薄いですし、『手紙は憶えている』のほうがキャッチーで興行的には良いとは思うんですけどね…。