『映画/テイキング・チャンス』戦場のおくりびとに感動(ネタバレ含む)

今回の1本は『映画/テイキング・チャンス』、「戦場のおくりびと」などというサブタイトルが付けられている場合がありますが、ちょっとこれはどうかと。ネタバレを含むと言っても謎解きもドンデン返しもない作品ですので…未鑑賞の方が読んでも問題ないかと。

むしろ「そういう作品なのか。じゃあ見てみよう」と、鑑賞のきっかけになるかもしれませんぞ。

テイキング・チャンス


2009年 アメリカ

主なキャスト:
ケヴィン・ベーコン
トム・アルドリッジ
ニコラス・リース・アート
サラ・トンプソン
アン・ダウド

監督:ロス・カッツ
脚本:ロス・カッツ

ネタバレ無しのあらすじ

第一線を退きデスクワークに従事するマイク・ストローブル中佐(ケヴィン・ベーコン)は、イラクで戦死した海兵隊員チャンス・フェルプスの遺体を遺族の元へと送り届ける護衛任務に志願する。

国のために亡くなった兵士に対する人々の畏敬の念に囲まれながら、ストローブルはワイオミング州を目指す…。

・・・といった内容の作品。

注)予告編は英語版です

キャストで戯言

主演はケヴィン・ベーコン

嫌なヤツだったり、悪いヤツだったり、クズなヤツだったり…そういう役柄を演じさせたら天下一品のケヴィン・ベーコン。

「ニヤニヤしながら人を陥れる」
 ↓
「だんだん形勢不利になる」
 ↓
「ファ○クを連発しながら暴れる」
 ↓

「最後の最後まで往生際悪く抵抗」
 
「死ぬ」

…というのが『ケヴィン・ベーコン映画』とも言える流れなのですが本作は全く別モノ。ニヤニヤしません。暴れません。キレません。死にません。

ただただ静かに、厳かに、一兵士の遺体に敬意を払いながら付き添う。そこにはバイオレンスもサスペンスもありませんし、戯言を挟む隙もありません。

私は常々「素晴らしい悪役を演じられる俳優こそ、本当に演技力のある俳優。カッコ良いヒーロー役なんぞ顔が良けりゃ誰でもできる」という勝手な持論があるのですが、まさに彼はそれ。

視線、背中、指先に至るまで、何も語らずともひしひしと伝わってくる感情が実に素晴らしい。

しかしこんなケヴィン・ベーコンではいつものノリで戯言が書けなくて困りますな…。

胸を打つ人々

映画を「エンターテイメント」として考えれば、本作はもはや映画とは呼べず。

実話に基づく話であり、作中で遺族の元へと送り届けられる海兵隊員・チャンス・フェルプスも実在の人物になります(エンドクレジット時に本人の写真あり)。

ヒネくれた見方をすれば『アメリカは単なる一兵士に対してもこんなにたくさんの人が敬意を払い、こんなに大事に扱ってますよー』というアピール臭がプンプン、不自然なまでに綺麗事すぎる登場人物で塗り固めた「いかにもアメリカらしい作品」でもありますが…

そこを「あー、うそくせー」と思ってしまえば、もはや観る価値無しの作品になってしまいますから。

決して薄っぺらい戦争賛美でも気取った戦争批判でもない。彼の死が本当に「国のため」だったのかどうかも関係ない。

純粋に「戦死」ということの重さと、それに対する人々の畏敬の念を感じるのが良いのではないかと。

ちょっとした積替えの際にも姿勢を正し、ゆっくりと敬礼をする。毎回同じことを繰り返しているにも関わらず、その都度彼の背中や視線に胸を打たれる。それを見守る人々の表情にも胸を打たれる。

一見軽薄に見えた運転手、機内のCA、護送中に追い越していく車、朝鮮戦争に従軍経験のある老兵士、その全てにグッとくるのは事実ですから。

個人的な戯言感想

尺はたったの約80分。盛り上がりもなければ、起承転結も無い。

ただただ「チャンス・フェルプスを運ぶ旅」を最初から最後まで描くのみ。

それなのに、まるで大モノ感動映画を観たかのような重さと満足感が残る、素晴らしい作品だと感じました。

物語終盤、「何故ストローブル中佐が本任務を志願したのか?」という理由が明かされますが、そこをあまり掘り下げすぎないのも良い。ここを過剰にやってしまうと変に彼のキャラが立ちすぎてしまい「いかにも映画的な主人公キャラ」に成り下がってしまいますから。それでは本作の魅力が半減です。

あくまでも個人的な感想になりますが…

積替えで一晩倉庫に置かなければならなくなった際、ストローブル中佐は用意されていたタクシーにも乗らず、ホテルにも泊まらず。決してチャンスの側を離れなかった。これが一番グッときました。

空港でのやりとりがあったので、てっきりココでも衣服を乱さず椅子に座ったまま夜を明かすと思いきや…普通にパンツ姿で寝袋使ってましたけど(笑)

そうなんですよね、そういうものなんですよね、軍人って。これが普通の会社員だったら、それが大事な商品だとしても普通にホテルに泊まりますよ。

ああ、またこういう世界に戻りたいな…と、元陸上自衛官として懐かしく感じました。

まぁ何年も娑婆のヌルさに浸りきってしまったので、戻ったところで全く使い物になりませんけど(汗)