アニャ・テイラー=ジョイとオリヴィア・クックの共演が話題を呼ぶ『映画/サラブレッド』でネタバレ&あらすじ&戯言を。
しかしこれがまた独特と言いますか、人を選ぶと言いますか…。
サラブレッド
2017年 アメリカ
キャスト:
アニャ・テイラー=ジョイ
オリヴィア・クック
アントン・イェルチン
ポール・スパークス
監督:コリー・フィンリー
脚本:コリー・フィンリー
ネタバレ無しのあらすじ
コネチカット州郊外にて再会した、幼馴染のリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)とアマンダ(オリヴィア・クック)。
名門校に通いながら一流企業でのインターンシップに励むお嬢様リリーに対し、アマンダは知能も高く論理的ではあるものの感情が欠落しており、ぶっちゃけサイコさん。似ても似つかぬ二人だったが、再会から徐々に友情が深まっていった。
しかし10代という不安定な年齢の彼女たちは、やがてとんでもない事件を巻き起こすことに…。
・・・といった流れの観る人を選ぶ作品。予告編に騙されてはいけない。
キャストで戯言
内容なんぞそっちのけ、ダブル主演の女優のどちらか(もしくは両方)が目当てでこの映画を選んだんだ!!…という方はそれはもう多い事でしょう。私もそうです。肩透かしを喰らいましたけど。
まずは感情的なお嬢様リリー役、アニャ・テイラー=ジョイ。『映画/スプリット』の…と紹介されることが多い彼女ですが、残念ながら私はそちらの作品は未鑑賞です。
この人って、見る角度やタイミングによって「おもいっくそ美人すぎる時」と「ひでぇブスヅラの時」の差が激しくありません?
そして無感情のキテる幼馴染、アマンダ役はオリヴィア・クック。こちらは『映画/レディ・プレイヤー1』を引き合いにだされますが、その作品もわたしゃ見たことがありません。私の中では彼女は『ベイツ・モーテルの鼻チューブの人』もしくは『切り裂き魔ゴーレムのヤバい人』です。
なおこの映画公開時で彼女は25歳。比較的童顔ではあるものの、さすがにティーンエイジャーを演じるのはかなり厳しいのでは…(汗)
そして忘れてはいけない名俳優がもう一人。
話だけはデカいが中身は小者、ティムを演じるのはアントン・イェルチン。『映画/スタートレック』が有名ですが、これまた私は見たことがありません…。いやいやこれでも映画鑑賞本数はすでに3000本を越えているんですよ。たまたま…です。
彼は本作クランクアップ2週間後に事故で亡くなってしまったためこの映画が遺作。高い演技力で多彩な役柄をこなし、失くすには惜しい俳優でした。
ここからネタバレを含むよ!!
ネタバレ含むあらすじ
本作の監督コリー・フィンリーは舞台作家として有名だった方で、この『映画/サラブレッド』が長編映画初監督作品。
それゆえ、章仕立ての構成、素直で客観的なカメラワーク、頻繁な場面転換を用いず会話劇で物語を構成していく…などなど、随所に演劇・舞台劇的な要素が。うむ、これはこれで独特な空気感が悪くない。
しかし…肝心のお話のほうがなんとも…。
まずは裏に込められたメッセージや暗喩などは置いておいて、表面だけをネタバレ3分あらすじで。
サラブレッド
ネタバレ3分あらすじ
久しぶりに再会したリリーとアマンダの二人。
リリーは絵に書いたようなお嬢様なのに対し、アマンダは個性的すぎてヤバい人。まったく毛色の違う二人ではあったが、徐々に友情は深まっていく。
ある日、常々継父のことが嫌いで仕方なかったリリーはアマンダの発言をきっかけに父殺しを決意。実行犯として小悪党ティムを選ぶも、残念ながら失敗。
続いてリリーは『自ら父を殺し、罪をアマンダに着せる』という作戦を実行しようとするも…ギリギリで良心の呵責がありアマンダに計画を暴露し謝罪。
しかしアマンダはそれを知ってなお、リリーのため計画に乗るのだった。『私の人生は無価値だから』と。
・・・そして時は過ぎ、リリーは大学へと進学。
彼女が企てた計画は成功し、アマンダは医療施設に収容されていたのだった…。
予告編はポップな雰囲気になっているため、つい「現代的な女子二人を主人公とした、シュールなドラマ作品」かと思ってしまいますが…本編が始まればそんな期待は早々に崩壊。非常に独特な空気が渦巻く怪作だったりするわけです。
そして最後もあっさりと『父親は殺され、計画通りアマンダが犯人として逮捕され、リリーは周囲の同情を得ながら大学へ』という淡々としたもの。
「善人は幸せになり、悪人は報いを受けました。めでたしめでたし」といった勧善懲悪モノしか受け入れられない方にとっては、そりゃもう胸糞悪い結末かと。
まぁそういう方は洋画なんて手を出さずに、水戸黄門でも見てりゃ良いじゃないですか…と思ったりしますけど。
サラブレッド・純血種とは
さてさてこの『サラブレッド』というタイトル。『馬』というイメージだけで解釈してしまったら少々意味不明なことになりますが、ここは『純血種』という意味で捉えるのが良いかと。
日本語の語感としては美しく優秀なイメージのある『純血種』ですが、そもそも馬にせよ犬にせよ人間が勝手な目的で作り上げ、勝手な価値観で「優れている」としている存在。
馬は走るために生まれてきた?だから走るのが速い馬が優れている?バカ言っちゃいけません。どこにそんな目的で生まれてくる生き物がいるんですか。
(馬の蹄機作用うんぬんは別として)
勝手に「走るのが速い」という性質を追い求めて生命をデザインし、本人(本馬)の意思とは関係なく「速く走ること」を強要し続ける。なんとも勝手な話じゃないですか。
そしてその『勝手な価値観による理想』を、同種に対しても押し付けるのが人間の嫌なところ。
リリーは『インターンシップの虚言』『盗作のレポート』など、嘘と誤魔化しを使って周囲の価値観で評価されようとしていますが、アマンダはもはや周囲の価値観に協調すること自体をやめている。
一見まるで異なる性格のリリーとアマンダですが、『第三者の価値観による呪縛』という共通点が、彼女らの友情の根底にあるのかもしれません。
この『サラブレッド』というタイトルが原題では『Thoroughbreds』と複数形になっているのは、リリーとアマンダを指しているのでしょう。
さらに言えば、最後にアマンダがリリーに宛てた手紙から「誰かが作った勝手な価値観に縛られすぎている現代人」も含まれるのではないかと感じます。
個人的な戯言感想
というわけで、表面だけをあらすじにすると淡々とした内容の本作ではあるものの、決して薄っぺらいサスペンス作品ではなく、現代社会における『人の価値』というものに一石を投じている(と思われる)、『映画/サラブレッド』。
…が、いかんせん独特すぎる。そしてエンターテイメント性も薄すぎる。
こりゃ長編映画というよりも文学など芸術作品向きのテーマのような気がしますなぁ。そこらへんも『舞台作家による作品』ということなのでしょう。
本徳では概ね高評価のようですが、個人的にはイマイチ面白いとは思えない映画でした。
そしてオリヴィア・クックが無駄遣い気味なところも残念。
感情の表現が非常に優れた彼女に、この「無感情・無表情」の配役は実にもったいない。しかしそれもまた、こちらの勝手な価値観の枠に彼女を押し込めているという事なのでしょうなぁ…。