豪華すぎるキャストに惹かれて選ぶと「なんじゃこりゃ?」となる確率60%の『映画/アナーキー』でネタバレ戯言。原作はシェイクスピアの戯曲『シンベリン』なわけですが、あの『映画/ロミオとジュリエット』とはまるで比べ物にならないレベル。もはや”映画”と呼べるのかすら・・・。
アナーキー
2014年 アメリカ
キャスト:
エド・ハリス
ペン・バッジリー
ダコタ・ジョンソン
ミラ・ジョヴォヴィッチ
イーサン・ホーク
アントン・イェルチン
ジョン・レグイザモ
デルロイ・リンドー
監督:マイケル・アルメレイダ
脚本:マイケル・アルメレイダ
ネタバレ無しのあらすじ
多くの部下を抱え、長年に渡り麻薬王として君臨しているシンベリン(エド・ハリス)。
その後妻となったクイーン(ミラ・ジョヴォヴィッチ)は、自らの息子クロートン(アントン・イェルチン)をシンベリンの娘イモージェン(ダコタ・ジョンソン)と結婚させようと目論んでいたが、イモージェンは幼少から共に過ごしてきたポステュマス(ベン・バッジリー)と勝手に結婚してしまう。
さらにクイーンは警察への献金を辞めるようシンベリンに助言し、組織と警察の全面戦争も勃発。
…といった流れで、クサくて寒いセリフをダラダラ垂れ流しながら、躍動感のない物語が展開する作品。
キャストで戯言
内容に関してはさておき、キャストだけに目を向けりゃそれはもう豪華なこの作品。
あまり映画に詳しくない方でも1~2人、コアな映画マニアならば5~6人は「おお!」という俳優が出ており、その豪華さに騙されてしまいますな。
まずは麻薬王シンベリン、演ずるは貫禄漂うエド・ハリス。
”麻薬王”という立場は戯曲そのままではあるものの、現代風にするため”バイクギャング”という余計な設定が付けられており、服装はなんとも貫禄のないライダースジャケットというのが泣き要素。
その麻薬王に取り入ってアレコレ目論む悪妻をミラ・ジョヴォヴィッチ。
これまた出番は多いがかなり薄いキャラで、歌まで披露しておきながら「ただそこにいるだけ」の存在だったり。
しかも彼女の息子をアントン・イェルチンって・・・ちと無理がありません??(2人の歳の差14歳)
祝福されぬ愛を貫いたり貫かなかったりするグダグダカップル(シンベリンの娘とその彼)を演じているのは、娘イモージェン(公式サイトや字幕等ではイノジェン)がダコタ・ジョンソンと彼氏(旦那)ペン・バッジリー。
ダコタ・ジョンソンはちょろちょろ見かける女優ですが、ペン・バッジリーは知らん人ですなぁ。
そして彼らのお付きとなっているシンベリンの部下はジョン・レグイザモ。名脇役ですな。
本作を語るうえでどうしても比較してしまう『映画/ロミオ+ジュリエット』にも出演しているので既視感が…。
有名どころは以上・・・・と、忘れてました、ファンも多く私も大好きなイーサン・ホークのことを。
晩年はヨゴレ役もガンガンこなしている彼ですが、今回もヨゴレ。しかもめっちゃキモいときたもんだ。
こんなわけわからん映画でわけわからん役をあてがわれても、しっかりガチの眼差しで演じる彼には尊敬と憐みの念が隠せませんなぁ…。
原作はシェイクスピアの戯曲
本作の原作となっているのは、あのシェイクスピアの戯曲『シンベリン』
その舞台を現代に置き換え、戯曲のセリフをそのまま使う・・・と聞くと、嫌でも思い浮かぶのはレオナルド・ディカプリオ主演の『映画/ロミオ+ジュリエット』(『ロミオ&ジュリエット』と表記される場合も)。
あちらは原作を上手に”現代”に転換し、ブッ飛んだ内容ながらも笑いあり涙あり爽快感あり、まさに『現代映画版・ロミオとジュリエット』として完成された名作でした。戯曲そのままのセリフも「ちょっとクサいか?」といった程度で問題なく受け入れられるところがまたお上手。
ところが『シェイクスピア戯曲を原作・セリフは戯曲そのまま・舞台は現代』という、同じ手法で制作されたこの『アナーキー』(原題はそのまま『シンベリン』)ときたら・・・
- やたら説明語りが多くてバカっぽい
- セリフはクサいを通り越して凍死レベルの寒さ
- まるで躍動感のない画面はそのまんま舞台劇
- 展開と表現がヘタクソすぎてテンポも悪い
- 原作で少々強引な部分をなおさら意味不明に
- (以下省略)
・・・と、悪い意味で舞台戯曲そのまんま。いや、それ以下の形に変換。
あの斬新すぎる手法の『映画/ドッグヴィル』ですらしっかりと”映画”として成立していたのに、本作はもはや”映画”とは呼べないレベルに突入。冒頭の設定説明もそのまんますぎて、まるで連続ドラマの『前回までのあらすじ』を聞かされている気分に。
そして本編が始まれば今度は説明不足すぎる展開と下手すぎる演出で、原作を知らん人が見たらイーサン・ホークの役どころすら「いきなり出てきて初対面で何言ってんだコイツ」と意味不明。
酒場で毒薬のトリックを違和感バリバリの独り言で告白してしまう医師も意味不明。
死んだと思われていたシンベリンの二人の息子を育てていた父親(ベレーリアス)も、「シンベリンの義理の息子を殺しちゃった!」→「ヤバいぞシンベリンが動き出すぞ!」→「いや逃げないで戦おう!」の流れで参戦しておいて『警察組織を相手に大暴れ』って、「え!?そっち!?そっちを相手に戦うの!?」と意味不明。
いきなり「死んだと思っていた息子」に会えたシンベリンは良しとしても、息子側のほうはいきなりそんな事言われてなぜ感慨深く抱き合えるの!?と意味不明。
ここまで警官を大量に殺しておいて「じゃあまた献金渡す事にするから。よし平和が戻った」ってのも意味不明。
これ、本物のシンベリンを見たことがある方ならばわかると思うのですが、本来の原作は多少強引な展開はあれど、物語としては受け入れられる流れになっているのですよ。
たしかに舞台を現代に置き換えたことで無理が生じた部分はありますが、『ロミオ+ジュリエット』の前例から考えるとただ単に『監督&脚本のマイケル・アルメレイダがヘタクソだった』のではないかと…。
超個人的な戯言感想
2000本近く映画を見ていると、B級映画などで「くっそつまんねぇ」「最後まで見るのが苦しかった」「100分無駄にした」といった経験は数えきれないほどありますが、「これは映画だったのか?」と思ったのは初めての経験。
そして映画鑑賞後になぜか眩暈が治まらなくなったのも初めての経験。
もちろん本作を「意外に楽しめた」という方もいるようなので、そういった意見を否定する気は全くありません。感想は人それぞれですから。むしろ100分を無駄にせず済んだのは羨ましいくらいですよ。
しかし私個人の感想としてはこの映画、
100点満点中、2点
です。
もはや『映画』として点数をつける気にすらならない。1点はイーサン・ホークが無駄に本気だったこと。もう1点はダコタ・ジョンソンのパンツ姿の尻。
もう監督を正座させて小一時間ほど説教し、「おまえは映画なんぞ辞めてコンビニでバイトしてろ」と言いたい気分ですな。わたしゃ英語は話せないので、おそらく通じないでしょうけど。