映画『チェインド』彼はどこへ?ラストの考察とネタバレ戯言

鬼才デビッド・リンチの愛娘ジェニファー・リンチ監督作品『映画/チェインド』、ネタバレやエンドロールの話に触れていますので未鑑賞の方はご注意下さい。世間では『胸糞映画』の括りに入れられる事が多い作品ですが、果たして…。

チェインド


2012年 アメリカ

キャスト:
エイモン・ファーレン
ヴィンセント・ドノフリオ
ジェイク・ウェバー
ジュリア・オーモンド
コナー・レスリー
ジーナ・フィリップス

監督:ジェニファー・リンチ
脚本:ダミアン・オドネル

ネタバレ無しのあらすじ

母親と映画館を訪れた9歳の少年ティム(エヴァン・バード)。

楽しく鑑賞を終え、帰路に就くためタクシーに乗り込む二人だが…なんとそのタクシーの運転手はヤバい人。

自宅へと連れ込まれた母は殺害され、ティムは殺人鬼ロバート(ヴィンセント・ドノフリオ)の手により監禁生活を送ることとなってしまった。

・・そして9年後。

鎖に繋がれ、ロバートの身の回りの世話を続けながら青年に成長したティム(エイモン・ファーレン)。

果たして彼の人生はどうなってしまうのか…。

・・・といった内容の鬱々とした作品。

キャスト(と監督)で戯言

まずは主演、成長後のティムを演じるのはエイモン・ファーレン。私は全く知らない俳優だったのですが、なにやら映画通な女子にはキャーキャー言われる存在らしく。

この『細くて押しの弱そうな男がモテる』という風潮、どうにかなりませんかねぇ…。ドSのマッチョがモテる時代は来ないのでしょうか…。

そしてもう一人、どちらが主演か迷うほどの存在感を放っているのはヴィンセント・ドノフリオ

様々な役柄を演じ分ける名俳優ですが、「不幸な生い立ちで人格がおかしくなったサイコ野郎」をやらせたら右に出るものはいないかと。『映画/ザ・セル』の彼は素晴らしすぎて座りションベンものですな。

…と、ションベンと言えば、俳優のショーン・ペンとヴィンセント・ドノフリオはなにげに義理の親子だったりします(2020年現在)。

ヴィンセント・ドノフリオの娘であるレイラ・ジョージがショーン・ペンの奥さんなのですが、ヴィンセントとショーンは1歳しか年齢差がありません(ドノフリオが1つ上)。

今回は長くなるのでキャストの話はこれくらいで…少しだけ監督のお話を。

本作の監督ジェニファー・リンチはその名字から推測できるとおり、あのカルトの帝王デヴィッド・リンチの実娘。

どうやら父親の変態性はしっかりと受け継がれたようで、本作を含めて彼女が作る長編映画はヤバいのが多くなっております(『映画/ボクシング・ヘレナ』がその代表)

なお本編にもちょろっと顔を出しており、テレビの料理番組の人がジェニファー・リンチその人ですよ。

ジェニファー・リンチ
©2011 Rabbit Productions Inc.

ここからネタバレを含むよ!!

ネタバレ3分あらすじ

内容に詳しく触れると長くなる作品ですので、まずはざっくりネタバレ3分あらすじから。

本作には2回、ドンデン返し要素があります。

どちらも予測可能ではありますが、2回目のドンデンはかなり激しくひっくり返しますので…予測出来なかった方はかなりの衝撃だったかと。

注!)物語中、ロバート(タクシー運転手のサイコ野郎)は愛称である『ボブ』(もしくはロブ)と呼称されている場合がありますが、当記事内では本名の『ロバート』で表記します。

ネタバレ3分あらすじ

映画を見終えた帰り道、タクシーに乗り込んだティムと母親は怪しい運転手に拉致されてしまう。
運転手の名はロバート。
母親はすぐに殺害されるも、ティムは殺されず、ラビットという名を与えられてロバートの身の回りの世話をすることに…。

そして時は過ぎて9年後。

18歳になったラビットに対し、
「おまえも一人前だから女くらい知らないと。好みの女をさらってきてやるから、しっかりとヤッたり殺ったりするんだぞ」
…と若くて美人なアンジーを用意するロバート。
しかしラビットは彼女を殺さず、殺したフリでロバートを騙し、助けを求めようとする(ドンデン返し1回目)。…が、失敗。もみくちゃになった末にロバートはラビットの手によって絶命。

晴れて自由の身となったティムだが、ロバート殺害後に家で発見した手紙により、自分と母親がさらわれたのは父の差し金だったことを知ってしまう。なんとロバートは父の兄だったのだ(ドンデン返し2回目)。
父の元を訪問してみれば、昼間っからナイトガウンでセレブな生活の父。問い詰めると逆ギレで暴力的な態度に豹変。

そんな父からかばってくれたのは、父の再婚相手。しかし今度は彼女に対して暴力を振るう姿に、ティムは激昂して父を殺害。
その場は再婚相手によって逃され、ふたたびロバートの家へと戻るティム。
部屋に戻り、手を洗い、シャッターを開け…彼はどこへ向かうのか…。

1回目の「アンジーは殺したフリだった」は読めていた方も多いでしょうし、2回目の「事件は父親の依頼によるものだった」も、勘が鋭い方なら予想できたのではないかと。

冒頭、三人で映画館へ向かうシーンから父親には妙な違和感を感じますし、そこに「バスを使わずに帰りはタクシーで帰ってこい。いいか、バスは使うなよ」ですからね、こりゃ何か企んでいるのは確定でしょう。

そして案の定、タクシー運転手(ロバート)により母親は殺害。

さらにこの後ロバートが殺害するのは全て『若めで単独の女性』ばかりですし、「みんな売春婦だ。アバズレだ」というセリフもあり、「子連れの母親」は彼のターゲットとしても違和感があるじゃないですか。

…ということから、「ティムらをターゲットにしたのは別の理由があった=父親が依頼した」と予想がついてしまいます。

しかし「二人は兄弟だった」は衝撃。回想のシーンで若かりし頃のロバートをじっと見る弟らしき存在、あれが父親だったとは…。

注!)なぜか『ティムの父親が兄、ロバートが弟』と勘違いしている方がいますが、夢の回想シーンで母親との行為を要求されているのがロバート。つまりロバートが兄、それを見ていたのがティムの父親(弟)です。

3つの「?」を独自考察

さてさて…大筋としては謎も少なく、全て種明かしが用意されている映画ではありますが、それでも鑑賞後にいくつか疑問に思う部分はあり。

それらを大きく3つに分け、超個人的な解釈で考察してみます。

なぜティムは生かされた?

父親は写真と郵便為替の入った手紙を送り、妻と息子の始末をロバートに依頼。

すでにロバートが連続殺人鬼だったと知っていたかどうかは不明ですし、なぜ為替が換金されていないのかも謎ですが…とりあえずは二人とも始末(=殺害)という依頼だったようです。
(手紙の文字を拡大してみましたが、末尾の「俺には連絡してくるな」しか読めませんでした…)

しかしティムは生かされた。なぜか。

『身の回りの世話をする小間使いが欲しかった』では浅すぎますし、『息子が欲しかった』とあの時点で考えていたとは思えません。

私の解釈では複数理由がありますが、最も大きいのはティムを不憫に思ったではないかと。

家に連れ込まれた際、ティムは最初に「パパが探しにきてくれる!」と言い放ちます。ロバートからすれば「その父親に捨てられ、殺してくれとまで頼まれたんだぞ」と言いたい所でしょうが、そうは言わずに「本当にそう思っているのか?」で留める。

自分も父親に恵まれなかったという経験もあり、身勝手な父を信じ続けるティムに何か感じるものがあったのではないかと。

その後、自らが父親であると主張する姿は横暴で不条理に映りますが、「おまえは父親に不要とされた。ならば俺が父親になってやる」という、歪みつつも彼なりの愛情表現だったと私は感じます。

父親に愛された経験がなかったり虐待を受けたりで育つと、自分が父親の立場になった時に上手な愛し方がわからないんですよね…。これ、私は痛い程共感できます。

アンジーはどうなった?

ティム曰く、大事な臓器はできるだけ避けて腹を刺されたアンジー。もって二日、それ以上は危険とのこと。

その晩はそのまま休み、翌日ロバートとティムは共にタクシーで外出。ここでドアに書いた『Help』の文字に気づいてもらいアンジーを救出…という作戦だったのでしょうがそれは失敗し、帰宅後にロバートを殺害。

そして昼間のシーンに変わり、手紙を広げたテーブルと、ティムのベッドにはアンジーの姿。これが『ロバート殺害から数日経過しており、すでに治療を受けている』と考えるのもアリだとは思うのですが…ロバートを埋めた描写があるので、やはり翌日(刺してから二日目)であると考えるのが普通かと。

土まみれでグチャグチャだった髪や顔は綺麗で服も整っており寝顔も安らかですから「山は乗り切って無事」という事を表現しているのでしょう。

となると気になるのはエンドロール後。ティムが父親の家から戻ってきた後の彼女の動向です。

『サイコ野郎の連鎖は続き、ティムもアンジーを監禁…』という流れならば彼女の足に鎖が繋がっているでしょうし、その結末は無いと私は思います。

そして命が助かった後もあの家で二人で暮らすとも考えられません。彼女にだって家族がいるでしょうから。

ティムには同情していたようですし、命を救ってもらった形にもなりますので、少なくとも彼が平和な日常を取り戻す手助けくらいはしてくれるのではないかと思います。

最後はどうなった?

父親を殺害し、再びロバートと暮らした家へと戻ってきたティム。

ガレージに立ち、シャッターを下ろし…で画面は暗転。エンドクレジットが始まるのですが、バックに流れるのは音楽ではなく「ティムのその後」を表現する生活音。なにかの映画でも同様の演出がありましたな。

音だけですので憶測の域を出ませんが、『ドアの開閉音』『室内を歩く足音』『冷蔵庫の開閉音』『液体が流れる音』『タクシーのドア音』『シャッターが作動する音』が聞き取れます。

ドアや冷蔵庫などの意味を追うことはしませんが、気になるのはその後。『タクシーのドア音』『シャッター音』でしょう。エンドクレジット前にガレージのシャッターは最後まで下ろしたので、この音はシャッターを開ける音で間違いないと思われます。

その前に『タクシーのドア音』があるので、『タクシーに乗り込み、シャッターを開け、ティムがタクシーを運転してどこかへ行く…と捉えた方が多いようですが、その解釈は間違いでしょう。

ティムは9歳からずっと閉じ込められ、ロバートと街へ出た際に9年ぶりにタクシーに乗せられて外へ出たのですよ?

車の運転ができるわけないじゃないですか(笑)

これは単純に『ティムは再び外へ出た』ということを表しているのみでしょう。

では彼はどこへ?

タイトルのチェインド(Chained)は【繋がれる】という意味と共に【連鎖】の意もあります。ロバートの父親はそりゃもうクズい人間で、彼からの虐待によりロバートの人格は歪んでしまいました。それを目の当たりにして育った弟(ティムの父親)も、同様に何かしらの歪みを持って成長したのでしょう。おそらく暴力性ではなかと思われます。

そしてティムもその血脈であり、9年間の監禁生活は彼の精神に歪みを生じさせるには十分すぎるほど過酷な環境でした。彼もまた、血の連鎖を受け継ぐ猟奇殺人者となった…という解釈もアリでしょう。

しかしそれでは悲しいですし、なにより短絡的すぎる。

あくまでも私個人の解釈ですが、最後のシャッターが開く音は「警察へ向かう(自首)」や「街へ行く(女を物色)」など、そういった具体的な行き先を表現しているのではなく、『彼は連鎖の外に出た』という表現でしかないと感じます。

そう思わせる鍵の1つとなっているのは、ティムを家へ入れた直後のロバートの母親に似ているなというセリフ。単に顔が似ているというだけの些細なセリフだと思いますが、これを「ティムは父親側(ロバート兄弟やその父)ではなく、母親側の性質の人間だ」という伏線と捉えることはできないでしょうか。

つまりティムの祖父、もしかしたらさらにその先祖から引き継いできた猟奇の連鎖(Chained)が、ティムで断ち切れた…という事ではないかと。まぁティムも二人も殺しちゃってるんですけどね(笑)

ただし忘れないでください、もう一人いるじゃないですか。

ティムが父親の元を訪ねた際に、

父親の血を引く、コリンという少年が…。

私はティムのその後よりもこっちのほうが背筋ゾゾッときましたよ。

ロバートに捧ぐ

男というの『自分がよく知る世界』を子供に押し付けたがるもの。

野球経験がある父親は子供にバットとグローブを買い与え、バンド経験があれば子供に楽器をやらせようとする。なぜなら話が通じるから。教えられるから。

自分が全く知らないジャンル、興味のないジャンルでは会話の共通点を見出だせないし、父親ヅラができません。すべての男がそうであるとは言いませんが、不器用と言いますか世界が狭いと言いますか…そういうトコありますよね。

ロバートがティムに対する振る舞いも、一般人から見れば理解し難いでしょうし肯定もできないでしょうが、彼なりの「本気の子育て」だと私は思うのです。

自分が人体に興味があるから、人体の本を与える。殺人鬼だから、人の殺し方を教える。

『自分の後継者として育てている』ではなく、単純に息子を一人前に育てているだけなのです。

ティムがアンジーを殺し、「狩りに行きたい」と言った時、ロバートはどれだけ嬉しかったことか…。

自分が『愛用の椅子に座ってくつろぐ』というスタイルだから、ティムにも専用の椅子を用意してやる。あれはティムを一人前の男として認めた証でしょう。「これでどうだろう、あいつは気に入ってくれるだろうか」といった彼の姿は胸が苦しくなります。

それだけに、ティムが自分を騙していたと知った時のロバートの気持ちを思うと、可哀想すぎていたたまれない。

おそらくノーマルさんからすれば「いやいや!だってコイツ頭おかしいから!」と、彼のほうが「間違っている」と断じるのでしょうが…ちと似た境遇で歪んでいる私としては、最も感情移入し共感できるのはティムではなくロバートでした。

超個人的な戯言感想

…というわけで、なんですか、メチャクソに長くなってしまったじゃないですか。

なにはともあれ、そういう部分も含めて個人的には大絶賛。久しぶりに心に刺さる映画でした。やるね、ジェニファー・リンチ。

世間では『胸糞映画』などと言われていますが、私個人の感想としては決して胸クソ映画などではなく、胸が苦しくなるほどの悲劇の物語。ティムとロバート、二人の悲劇です。

殺害された女性達やティムの母親、アンジーも悲劇っちゃー悲劇なのでしょうが、わたしゃ女どもには全く共感出来ませんのでどうでも良いです、はい。