今回はエグい解剖、露骨なミスリード、しかし強引展開でグイグイ引き込む『映画 カット/オフ』でネタバレと考察を含む戯言を。気になりがちな『インゴルフが黒幕』説と『エンダーも怪しい』説も、変人目線で考察・解説します。
いやー、やはりヨーロッパ系の映画はクセが強くて面白いですなぁ。
カット/オフ
2018年 ドイツ
キャスト:
モーリッツ・ブライブトロイ
ヤスナ・フリッツィ・バウアー
エンノ・ヘッセ
ラース・アイディンガー
ファーリ・ヤルディム
監督:クリスティアン・アルヴァルト
脚本:クリスティアン・アルヴァルト
ネタバレ無しのあらすじ
検視官のポール(モーリッツ・ブライブトロイ)の元に運び込まれてきた一体の遺体。
顔の半分が空気を抜いたようにしぼみ両手も切断されていたその遺体は、頭の中に金属のカプセルを埋め込まれていた。
ポールがカプセルを開けてみると、そこには最近関係が上手くいっていない彼の娘、ハンナの名前と電話番号。恐る恐る電話をかけてみると「パパ助けてー。パパが言う通りにしないと殺されるー」の展開であらびっくり。
一方、嵐で孤立するヘルゴラント島では漫画家のリンダ(ヤスナ・フリッツィ・バウアー)がダニーの影におびえつつ、ナンパされたり転げ落ちたり死体を発見したり。
離れた地での二人の物語はやがて繋がり・・・・かと思いきや、意外と早々に二人は繋がり、「チン〇もしっかり見ろ!」「肛門から抜いてくれ!」などのミラクルワードを展開しながら物語は核心へと近づいていくのだった。
・・・といった流れで、頭に血が上りやすいポールと不運なリンダが怪しい人々の間で右往左往する作品。
ヘルゴラント島(ハルゴラント島)の場所
ドイツ映画ということで一見さんの俳優が多いため、恒例の『キャストで戯言』はございません。
代わりと言っちゃなんですが、本作に登場する『ヘルゴラント島』についてちょろっと紹介。ドイツの物語で孤島ってのはあまり聞かんので、どこそれ?となる方も多いかもしれませんし。
なお作中では”ハ”ルゴラント島となってたりしますが、カタカナ表記では”ヘ”ルゴラント島が一般的です。
ここですな。
1㎢程度の小さな島と、さらに小さな島の2つで構成される観光地。
古くから人間が住んでおり、デンマーク領になったりイギリス領になったりしつつ、1952年からドイツ領となっています。
ポールのいるベルリンからは直線距離で400kmの位置にあるので、ちょうど東京↔大阪の直線距離と同じくらいですな。
伏線&ミスリード
島の位置関係がわかったところで映画内容のお話。
本作は冒頭から大量の『伏線』が散りばめられており、その中には『ミスリード』のための描写も大量。演出もミスリード系が多いため、頭からっぽでヨダレ垂らしながら見ていると何がどうなっているのか混乱してしまったり、なんかおかしくね?と思ってしまったり。
その全てを解説していくとダラダラした文章になってしまうので、『この映画のキモ』となるポイントに絞って1つ1つ考察していきますか。
なおここからは鑑賞済みであることを前提で、盛大にネタバレの内容となります。
まだ未鑑賞の方は回れ右してレンタル屋に走るか、AmazonPrimeで鑑賞してからまた来てくださいな。
ポイント考察・解説
ハンナの監禁と時系列
同時進行している話だとおもわせつつ、実は片方は過去に起こった出来事だった・・・というのは、どんでん返し系サスペンスでたまに見る手法。作り手が上手であれば素直に「そうだったのか!」と面白さに繋がるものの、ヘタクソだと「あれ?つまり…」と混乱するアレですな。
本作も娘であるハンナの監禁部分でそれに近い表現を用いています。
最終的に明確になりますが、ハンナはエリック(変態野郎)には一切手を出されておりません。
冒頭でハンナに一目惚れした男性諸君、良かったね。キミのアイドルは汚されていないよ、とりあえずエリックには…だけど。
作中で目を覆いたくなるような凌辱をされているのはレベッカ。一連の事件を計画した一人であるフィリップの娘ですな。彼女は過去に監禁され、ハァハァされ、首吊り縄をあてがわれ、自死した可哀想な娘です。
その映像は全て録画されており、監禁中のハンナがそれを見ているという出来事を、さも繋がっているかのように表現・・・ってのが本作の大きなキモなのですな。この時のエリックはしっかりと喋れている(その後フィリップがサクサクやったせいでフニャフニャしか喋れなくなる)ので、そこでも過去の映像だと理解できます。
レベッカの部分は全て顔がハッキリと映っておらず、ハンナの顔が映る部分は全てアップでじっと見据えているため、タネを知ったうえで再鑑賞すればそのまんまなのですが、複雑な展開の合間に見せられるとちょっと気づきづらい。
しかもちょっぴり卑怯だったりも。
ハンナが見ているレベッカの映像は高い位置に設置されたビデオカメラのものなので、本当であればカメラワークは固定なのですよ。
そこを単なる固定映像とせずに見せているからこそ騙される。うーむズルい。
なお『なぜハンナがそんな映像を見せられているのか』という点に関しては、『おまえの父親のせいでレベッカはこんな目に遭ったのだ』というのを娘に見せたかったのではないかと。
まぁポールに落ち度があったわけではなく、『捏造に加担しなかった』という事に対する恨みなので逆恨みっちゃー逆恨みですな。そしてなんの罪もない娘にそんなもん見せんな、トラウマになるだろ。
インゴルフが黒幕?
これがこの映画で最もデカいミスリードではないかと。
たしかにインゴルフは序盤から執拗にポールに付きまとい、彼が謎を追っていく手助けをしていきます。まるで彼を導くかのように。
さらにちょいちょい『インゴルフ怪しいよ』と思わせるような演出を連発。まず雰囲気からして怪しいですし。
その全てが露骨すぎる上に回収すらしない『単なる演出』で終わるのですが、逆に回収しないせいで「じゃあアレはなんだったん!?」という謎が残ってしまい、怪しいという気持ちは最後の最後まで拭えず。
本作は鑑賞者に委ねる部分が多いため、都合の良い解釈をし、強引につじつまを合わせてしまえば『インゴルフが黒幕』説もそれなりに筋の通った考察になったりするところもスッキリしない原因ですな。
なんでしょうね・・・例えば『検視官を支援する財団の理事長になってもらいたい』というのは本当で、そのために『法を守ることが犯罪を防ぐ結果にはならない』という事を学んで欲しかった・・・とか、そんなんもアリかと。いや、たった今適当に考えただけよ。それも無理があるし。
それらの可能性も考慮したうえで、私個人としては
インゴルフは黒幕ではない
といのが結論ですな。
最後の最後、ヘリには乗らずに去る彼の後ろ姿に迫るカメラと怪しいSE。
これも「まさか最後にインゴルフが襲われるのか…」というドキドキ感だったり、「コイツやっぱり何か隠してる」というザワザワ感だったり、「ヘリにエリックを乗せたのは彼だ」と解釈したくなるような演出でもありますが、この映画は序盤からハッタリのミスリードが多用されているので、その1つと捉えて良いのではないかと。
…と思わせておいて、最後の最後はハッタリではなかった・・・という解釈もしたくなりますが、私はそうは思いませんでした。これは後述の『本当の流れを解説』も関係してきます。
エンダーも犯人の一味?
インゴルフが黒幕として怪しいならばコイツも怪しい。コメディアンを目指すマッチョの用務員、エンダーですな。
彼もインゴルフと同じく、主要人物ではない位置から物語を核心へと導く役割を担っているため、『本当は犯人の一味なのでは…』という疑問を感じた方も多いのではないかと。
しかし彼に関する怪しさも、本作の特徴とも言える『思いっきり匂わせておいて、実はなんでもないハッタリミスリード』の1つ(と個人的に断定)。
詳しくは次項の『本当の流れを解説』で説明しますが、彼は一連の計画ではイレギュラーな存在(リンダも)であり、単純に巻き込まれた人物と考えるべきではないかと。
本当の流れを解説
さてさて、今回はここからが本題。
この映画は名作小説を基としているだけあり、予想外の出来事から発展した流れを上手に物語として成立させております。
それゆえに鑑賞者が翻弄される部分も多いのですが、落ち着いて『フィリップとイェンスが計画していた本当の流れ』、つまりエリックが復活せず、予定通りに進行していた流れを整頓してみると、物語の本質が見えてきます。
文章長くて疲れていると思うのでわかりやすくざっくりと、順に追ってみましょう。
- 一人目の遺体(フィリップの奥様)からカプセルを発見。ハンナが捕らわれた事を知る。
(顔半分と手は身元を隠し、すぐにフィリップへとたどり着かせないための時間稼ぎか) - ハンナの口から『パパ助けて、言うとおりにして。エリックを待って』と指示を受ける。
(エリックが犯人と思ってしまうが、実は『エリックの遺体を待って』の意) - エリックの遺体から、元裁判官トーベンの写真を得る。
- 映画ではここでイェンスの家へと向かい、彼がエリックを追っていたこと、レベッカという新たな被害者がいたこと、その父親フィリップが計画に協力していることを知る。
- 元裁判官トーベンの尻に刺さった棒からGPSの座標を得る。
- GPSの座標からイェンスが潜む場所へと到着。ここで気絶させられ、フィリップのメッセージを伝えられる。
(ここでイェンスは自決。フィリップも動画内で自決) - イェンスを探し、遺体の首にかかったカギを手に入れる(これがハンナの部屋のカギ)。
- 『アルカトラズの光をたどれ』というメッセージから、ハンナを発見する。
…という流れになるのですな。
最終的にハンナにたどり着けるまで多少強引な点はあるものの、しっかりと道筋が出来上がっていたわけです。
なお④の『イェンスの家に行く』ですが、③でトーベンを追うとポールはハルゴラント島へ渡る事になり、しかも尻からGPSの座標が出るので直接イェンスの隠れ家に向かっていた可能性も。そうなるとイェンスの家の前にあった箱もスルーということに。
ここは早めに『過去に起きたイェンスの娘の事件が原因だ』と気づき、イェンス宅へ向かうと思われていたのかもしれませんな。
つまり、エリックが復活してしまうという想定外の出来事がなければ・・・
最初からハンナをエリックの餌食とする気は無かった
という事なのですよ。
「ハンナとエリックを二人きりにした」というのはポールへのハッタリでしょう。なにせそのメッセージを残した時点ですでにエリックは浜辺で遺体となっている(はずだった)のですから。そして映画的には凌辱映像がハンナだと誤解させるためものでもありますな。
映像の日時が2日前である点ももちろん設定ミスではなく、その通り。それがおかしいと感じた理由の『エンダーが刺されたから』も、フィリップには予想外の展開ですので。
そしてお気づきになります?そう・・・
リンダ(エンダーも)がいなくても話は進んでいた
のですよ。
予想外の遺体の入れ替わりによってハンナの携帯電話がリンダの手に渡り、それを利用することによってポールは本土と島を無駄に往復することなく手がかりを掴むことができました。素人に無理矢理解剖をさせることによって、です。
本作の醍醐味でもある展開自体が、フィリップにとっては計画外の出来事なのです。
たしかにインゴルフがいなければあんなに簡単に物語は進まなかったでしょうし、エンダーがいなければリンダも解剖できなかった。しかしリンダもインゴルフもエンダーも、フィリップとイェンスが描いた筋書きには全く含まれていない人物。
それゆえ『エリック(本当はフィリップ)の遺体にハンナの携帯電話を忍ばせたのはエンダーだ』といった解釈は的外れと言えます。計画通りにいっていれば、あの時点で携帯電話は手に入っていないのですから。
そこからも彼らは『遺体の入れ替わりという予想外の出来事を成立させつつ、ポールを結末へと導くための登場人物』と判断して良いのではないかと。
本当の筋書きから考える謎
さぁ、みんな大好きリンダちゃんが実はいてもいなくても話は進んでいた…というショッキングな事実は置いといて。
フィリップらが計画していた本当の謎を整理してみると、新たな疑問が生まれるのですよ。
一番はアレですな、
『なんでフィリップの遺体を自分だと偽装した時、エリックはカギを取らなかったん?』
ですな。ここで取っておけばポールが到着するまで思う存分ハンナを好き放題できたのに…。
後から気づいたんだろうね、たぶん。「あれ?カギかかってるじゃん!フィリップが持ってんのかよ!!」と。
しかしこのカギにしても、
『遺体に変わったことはないか?』→『首からカギを下げているわ』→『そりゃ関係ないな』
というスルーっぷりも「おいおい!!」となりますし、
『他にはないか?』→『乳首の下に傷があるわ。注射痕かしら』→『それも関係ないな』
も、「おいおい!もっと気にしろよ!」と。
なのにパンツを脱がせてのチン〇確認は必死に食い下がり、尻に刺さった棒を抜かせる行為も強要。もはや新手の変態テレフォンプレイですな。
どうせならドサクサに紛れて「自分のパンツの中に手を入れてごらん」とか「今どんな気持ちかオジサンに言ってごらん」とか、やってくれても良かったのよ?
超個人的な戯言感想
…というわけで。
いやー、久しぶりに映画を観ました。そして久しぶりに見ごたえのある作品でしたな。
なにせこの手の映画にしては長尺の約130分。
それでも次から次へと起こる出来事と、それをぐるんぐるん回しながら展開させる手法のおかげで、ダレることなく最後まで楽しむことができました。やはりヨーロッパ映画は面白い。
ちなみに実は去年、緊急搬送からの緊急入院、そしてそのまま頸椎の緊急手術をしているのですよ、わし。それが当ブログが一時停止していた理由の一つだったり。
今でも30分以上は座っていられないため、精神的には面白くても肉体的に130分はキツかったですわー。