人によっては意味のわからんB級映画、しかし私にとっては人生に影響を与えるほどの怪作。そんな『映画/ディヴァイド』を持ってきてみました。あらすじやネタバレを含みますが、本作はそんな事どうでも良いほど『謎』だらけですので…未鑑賞の方でも大丈夫かと思います。たぶん。
ディヴァイド
2011年 アメリカ・カナダ・ドイツ
主なキャスト:
ローレン・ジャーマン
イヴァン・ゴンザレス
マイケル・ビーン
マイロ・ヴィンティミリア
マイケル・エクランド
アシュトン・ホームズ
ロザンナ・アークエット
コートニー・B・ヴァンス
アビー・シックソン
監督:ザヴィエ・ジャン
脚本:カール・ミューラー、エロン・シーン
ネタバレ無しのあらすじ
何がどうなっているのか説明無しで突然街を襲う大爆発。
大混乱の中、アパート地下のシェルターへと逃げ込む事ができたのは9人の男女。
いったい何が?テロ?戦争?宇宙人の襲来?
そんな疑問を置いてけぼりにしたまま、極限状態に追い込まれた人間の狂気が展開。
もう何がどうなっちゃうのやら。
・・・・といった内容の作品。もはやSFでもスリラーでもなく、ヤバい方向性のヒューマンドラマ。
今回は全体的にネタバレを含むけど…大事なのはストーリーではなく人物描写なので、未鑑賞で読んでもほぼ問題ないよ!
キャストと登場人物で戯言
恒例の「キャストで戯言」ですが…なにせ地下に閉じ込められた男女は9人もいますから。
登場人物が多い作品は名前と顔を覚えるのに時間がかかってしまったりするものですが、本作はそれぞれのキャラ設定がしっかりしており、なおかつ演じる俳優も個性的。
今回はキャラ設定と特徴も含めて、キャスト戯言といきましょう。
-『エヴァ』-
本作のヒロイン。特徴は『美人』
薬物依存のグダグダだったところを婚約者サムに救われた、という経緯があるものの、どうやら彼の事は本気で愛してはいないご様子。
サムに対して感謝しているし愛そうとはしているのだけれど、自分の人生の負い目と「サムの中に潜む、エヴァのような人間を見下している本性」に壁を感じているのだろうな…なんて思ったり。
演じるのはローレン・ジャーマン。『映画/テキサス・チェーンソー』に出演していたらしいですが、全然覚えていません。
-『サム』-
エヴァの婚約者であり弁護士。特徴は『ヘタレ』
こういう職業の人って、この手のシチュエーションでは頼りにならない足引っ張り役になっちゃうんですよねぇ…。まぁサバイバルとは対極の位置で屁理屈こねるのが仕事ですから、仕方ないところです。演じているのはイヴァン・ゴンザレス。他に出演作品は知りません。
-『ミッキー』-
シェルターの所有者。アパートの管理人。特徴は『変わり者』
映画序盤はとにかく彼の不条理な発言のせいで「ひどいB級映画感」が漂うのですが…慣れてくると「ああ、そういう人だったのね」で済んだりも。いろいろ苦労した末に自分の殻を閉じてしまった方のようです。
個人的に彼のようなタイプは好きです。共感できますし。
知る人ぞ知る名俳優マイケル・ビーンが演じています。
-『ジョシュ』-
9人の中で一番のオラオラ系。特徴は『暴君』
開始時に防護服でシェルター外に出て、そのまま一人で逃げるかと思いきやウェンディを探してくれたり…。口と態度は悪いが根は悪いヤツではないといった印象もあったものの、やはり暴君へとクラスチェンジ。彼も凄まじい「狂気」を見せてくれますが、いたってノーマルな狂気なので惚れません。
演じているのはマイロ・ヴィンティミリア。それなりに出演作品のあるイケメン俳優ですが…個人的には思い入れ無し。しかし物語が進むにつれて変貌していく雰囲気はなかなか良いですな。
-『エイドリアン』-
ジョシュの腹違いの弟。特徴は『ノーマルさん』
個性豊かすぎる9人の中で最も一般人的なポジション。善悪の判断はできるが、だからといって大胆な行動を起こせるわけでもない、小さくまとった小市民。
俳優アシュトン・ホームズはドラマ出演が多い方のようで、映画ではちょっと見た事が無い気がします…。そんなところも地味。
-『ボビー』-
ジョシュの友人。特徴は『素晴らしき変人』
ついにきました。物語が進むにつれてどんどん別人のように変わっていく様と、その予測不可能なリアクションが私の心を掴んで離さないボビー先生です。彼を見たいがためにこの映画を何度も鑑賞しましたから。そのあまりにも深すぎる心情描写を理解できる人は少ないだろうなぁ…と、心配になるほどの怪演っぷりにパンツも濡れてきます。
演じているのはマイケル・エクランド。ちょいちょい他映画にも出演していますし、ドラマシリーズ『ベイツ・モーテル』にも登場しましたが…そのどれも彼の本当の魅力を発揮できていないのが残念です…。
-『マリリン』-
子連れで閉じ込められる女性。特徴は『子持ち』
娘ウェンディと共に地下シェルターへ閉じ込められるものの、早々に娘を連れ去られて心がアレな事になってしまう残念な方。9人の中で最も可哀そうな気も…。
「なんで若いエヴァじゃなくて、こんなオバちゃんのほうに手を出すの?」と疑問に思われそうですが…。たしかにエヴァはルックスは美人ではあるものの、中身が小娘で全然可愛げがないじゃないですか。それよりも人生経験豊富で物事をわかっている大人の色気のほうが良いよなー…と私も思います。見た目も十分可愛いですし。あれ?ダメですか?
演じるはロザンナ・アークエット。かなり出演作品の多い名女優ですよ。
-『デルヴィン』-
とにかく言う事聞かない人。特徴は『黒人』
あーだーこーだと偉そうな物言いをしておき、無線をやめろと注意されても素直に聞かない。どうも黒人の方ってこういう役柄にされる事が多いですよねぇ。『映画/ミスト』を思い出します…。
俳優はコートニー・B・ヴァンス。出演作品は多いものの、特に知っている映画はないな…と思っていたら!『映画/ハンバーガー・ヒル』に出ているじゃないですかっ!子供の頃に好きで何度も何度も観ましたよー、あの殺伐とした戦争映画。
-『ウェンディ』-
早々に連れ去られる女の子。特徴は『子供』
「帰りたい帰りたい」と訴えているうちに、さらっと攫われてツルピカにされてカプセルに入れられ、何やらよくわからない事をされる女の子。もはや何をどうとか書く事もないうえに、特に可愛くもない。アビー・シックソンという子役であるという事すら、もはやどうでも良い感じ。
謎は謎のままで
長いっ!!登場人物とキャストの話だけでもうこんなに長くなっちゃって…書きたい事が全然書けないじゃないのよっ。
とにかくこの『映画/ディヴァイド』、世に溢れるお節介作品のようにアレコレ説明してくれるような映画ではありません。
- 謎の防護服集団は何者?
- 子供達を集めて何をやっているの?
- そもそもテロだったの?
- 一人で外の世界に出たエヴァはどうなるの?
それらの全てはぶん投げっぱなし。こちらが想像するしかありません。
過剰な説明と露骨な種明かしに慣れてしまった方には「なんじゃこのクソ脚本はっ!」と感じてしまうかもしれませんが、本作の魅力はそういうエンターテイメント的な方向ではなく…
追い込まれた状況での人間の姿
…です。冒頭でも書きましたが、本作はSFでもパニックでもなく人間の心情描写に焦点を当てたエグいヒューマンですから。
『極限状態で露呈する本性』や『いかにして自分という存在を保つか』、そんな部分を綺麗ごと抜きで考えていく…そんな映画です。
ところがどっこい、このパッケージは良くないですよ。これじゃ完全にありがちなSF映画だと勘違いしちゃうじゃないですか。
さらには序盤のひどいB級感と、終盤の無理矢理なグダグダ感。これのせいでせっかくの濃厚な中盤の印象が薄くなってしまうんですよね…。『物事は始めが肝心』『終わり良ければ全て良し』そんな言葉もありますが、そのどちらもアレな仕上がりになってしまってるために肝心の部分が…。
もちろんロクに設定もなく『単純に9人が閉じ込められただけ』では話が浅くなるのは理解できるのですが、もうチョイどうにかできなかったかな…という悔しさも残ります。
超個人的な戯言感想
極端に賛否両論分かれるこの『映画/ディヴァイド』ですが、変人の私としては絶賛に近い評価。
ただし冒頭と設定は10点。終盤の展開も10点。しかし中盤が99点(100点満点)という、変に偏った評価になってしまいますけど…。
とにかくボビーに惚れすぎてしまったため、「なぜ頭を刈られる際に鏡の前で泣くのか」「なぜ女装し始めるのか」など、彼の心情に関して書き連ねていったらキリがないほど。『超個人的・大好きな登場人物ベスト10』にもランクインしています。
内容としては『映画/ブラインドネス』に近いような「目を背けたくなる人間の醜さ」を描き出してくる作品ですので、決して人にオススメできる映画ではありませんが…ツボに入る方にはズバッと入る名作(迷作)だと思いますよ。そんな方はごく一部だと思いますけど…(笑)