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ついにきました、いつか書きたいと思いつつも勝負を避けていた1本、『映画/ファニーゲームUSA』です。あらすじやネタバレ、演出等の話を含みますのでご注意下さい。

1997年公開の胸糞映画『映画/ファニーゲーム』を同監督がセルフリメイクした作品となっており、セリフや演出は少々異なるものの内容は同じ。こちらはUSAと付くだけあって美男美女を起用し娯楽性に富んだ作品となっていますが…相変わらず『不快感を絵に書いて額に入れて飾ったような作品』です。

ファニーゲームU.S.A


2008年 アメリカ

主なキャスト:

ナオミ・ワッツ
ティム・ロス
デヴォン・ギアハート
マイケル・ピット
ブラディ・コーベット
シオバン・ファロン

監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ

ネタバレ無しのあらすじ

家族で休暇を過ごすため、湖畔の別荘を訪れたファーバー一家。

到着後、夫ジョージ(ティム・ロス)が息子とヨットセーリングの準備をしている間に、妻アン(ナオミ・ワッツ)は料理の支度。

そんなアンの元に「卵を分けて欲しい」と一人の青年がやってくる。

隣人であるトンプソン氏とその青年が一緒にいる姿を見ていたアンは、快く卵を分け与えるのだが…そこからすでに「ゲーム」は始まっていたのだった…。

・・・といった内容の作品。

キャストで戯言

元映画『ファニーゲーム』の夫婦役は若干庶民的なルックスでしたが、こちらはハリウッドらしく美形の大物を起用。

脚を折られると同時に心まで折れる、無力な旦那さんはティム・ロス

出演作の多い有名俳優ですが個人的には特に思い入れはありません。

その妻を演じるのがナオミ・ワッツ

こちらも出演作の多い大物女優ではありますが、本作ではそりゃもう見ているこちらが心配になるほどのボロクソっぷり。途中からはずっとセクシーな下着姿を披露…と言いたいところですが、ひどくダサい下着だったのが残念。まぁそのへんもリアル路線という事で。アレがスケスケの勝負下着だったら気になって物語が入ってきませんし(笑)

そんな彼らを不条理に追い詰める青年二人にマイケル・ピットブラディ・コーベットを起用。

彼らのイケメン感のせいで、元映画とは気持ち悪さの質がだいぶ異なる気がするのですが…これはこれで別種の不気味さがあって良いかと。


ここからネタバレを含むよ!!

ネタバレ有りであらすじ戯言

幸せそうな家族の前に不意に現れ、スルスルと家の中まで入り込み、一方的な主張で不条理なゲームを楽しむ青年二人。

もう卵を借りに来たあたりでネチネチと嫌~な気分になりますなぁ。

とにかく既存のスリラー・ホラー作品(と、それに慣れた観客)に対する挑戦的なまでの皮肉に溢れており、映画的お約束の枠から外れたような展開が連発。

しかしそのクセに「カメラ目線で聴衆に語りかける」「失敗したらリモコンで巻き戻す」など…明らかに虚構のメタ演出を盛り込むという…。ホント、いろんな事に対して真正面から喧嘩を売っているような作品です。

さらっと表面だけ撫でてしまえば『全く救いのない不条理な映画』で終わるのですが、そこに潜む様々なアンチテーゼを感じてしまうと…これが泥沼のような奥深さでもあったり。

そのあたりに関して、なにをどう解釈するか、どう意味を見出すかは人それぞれ違うと思いますので…あくまで私が感じた一部を。。。

映画という虚構

映画というモノはあくまで「作られた物語」ではあるものの、臨場感や生々しさを感じられる演出は見ていて面白いものです。

…が、果たしてそれは本当にリアルだったのか?…と問いかけてくるのがこのファニーゲームUSA。

まず罪もない親子三人のうち真っ先に子供から殺されるなんて、映画的にはタブーですから(笑)

この手のシチュエーションであれば父親も母親もギャーギャー喚き散らしながら犯人に抵抗する…というのが映画では常ですが、本作の二人は突然訪れた理解を超える状況に思考が追いつかず、どんどん憔悴して魂が抜けていくばかり。

一瞬のすきを突いて反撃に転じ、犯人の一人を射殺!…と思ったら、そんな「いかにも映画」的な展開はダメダメ!とリモコンで戻される始末。

冒頭に描かれた「ヨットの中に落としたナイフ」も、映画的には最後の逆転劇のための露骨な伏線なのですが…どう使われるのかと思いきや、見ている前で必死にロープを切ろうとするだけしかもすぐにバレてあっさりポイッとされて終わり。うん、現実だったらそんなもんです。

頭を撃たれてドーンと飛び散ったり、首を切られて血がブシャーッと出たり、露骨におっぱい出してサービスしてみたり…といった展開を繰り広げた末に最後は正義が勝つ。そんな映画を生々しいだの言っている人間に対し、鼻クソほじりながら「ふーん、そんなのがリアルなんだ?」と言い放つような展開じゃないですか。

もちろんこのファニーゲームUSAも虚構ですので、細部にツッコミ要素やご都合展開はありますが…それでも従来の映画に対するヒネくれた挑戦が強く感じられます。

某大国

これはちょっと考えすぎの独りよがりかもしれませんが…。

一見親切な素振りで親しげに近づき、あたかも筋が通っているかのような理屈で相手を批判し、報復という名の暴力で制圧し自分たちのルールを押し付ける。

…なんかコレ、どこぞの大国のやり口っぽくないですか?

大義名分を振りかざして他国の問題にズカズカと介入し、自分達の利権や価値観・宗教観で断罪し、一方的な制裁を加える。そしてそこに価値がなくなれば、惨状はぶん投げっぱなしで撤収。

ドコの国とは言いませんし、その国が常にそんな事ばかりしているとも言いませんが…どうも『某大国』が頭に浮かんでなりません。

祈り方を知らないアンに対して「神に対する祈り方を知らないのか?さぁ祈れ、手を合わせて天を仰いで祈れ」と強制するところも、侵略と暴力で自分達の信仰を押し付けてきた『某大国』っぽいですし。

「卵を落としたのは悪かったが、まだ残っているのに分けてくれないとはケチじゃないか。さっさとよこせ」

「言い方は悪かったかもしれないが、先に手を出したのはアンタなんだから脚を折られても文句は言えない」

何かの事柄に対し、理屈の通った反論さえできれば「はい、論破~」などと言い始めるアホウが多い世の中ですが、どんな事でも肯定・否定の理由なんていかようにも付けられるものですから。「理屈が通る=正しい」とは限らないのですよ…。

個人的な戯言感想

…というわけで、胸糞映画の金字塔とも称される『映画/ファニーゲーム』ならびに『映画/ファニーゲームUSA』、一度見りゃ十分…という人も多い中、私は数回鑑賞するほど好きな作品です。

いかにも映画的な展開で「善人は報われる」「正義は勝つ」「必ずチャンスはある」なんてのは偽善臭くて屁が出そうになる私としては、『従来の映画よりも現実的な演出』『従来の映画よりも虚構じみた演出』を混在させつつ、定番の救い要素を排除したこの作品は晩のオカズに最適。

ちなみに初見時、あまりにも感動しすぎて友人に勧めたところ「今後面白いと思った映画があっても、もう二度と勧めてこないで」と釘を刺される事になった思い出深い一本でもあります…。