100人中80人くらいは中身を勘違いして鑑賞を始めてしまったであろう『映画/マジカル・ガール』でネタバレ&戯言解説。病を抱えながらも魔法少女に憧れる娘のため、失業中の父親が必死に頑張る、ちょっと笑えてちょっと涙する愛の物語・・・・
・・・ではないぞ!(涙)
マジカル・ガール
2014年 スペイン
キャスト:
ルイス・ベルメホ
ルシア・ポラン
バルバラ・レニー
ホセ・サクリスタン
イスラエル・エレハルデ
ハビエル・ボテット
監督:カルロス・ベルムト
脚本:カルロス・ベルムト
ネタバレ無しのあらすじ
白血病を患う12歳の少女アリシア(ルシア・ポラン)は日本のアニメ『魔法少女ユキコ』に夢中。
ある日、彼女の日記に『魔法少女ユキコのドレスを着て踊りたい』と書かれているのを見た父ルイス(ルイス・ベルメホ)。
しかしドレスは有名デザイナーの1点ものでお値段なんと約7000ユーロ!(日本円にして90万)
失業中の身にはどうにもならん金額ながら、愛する娘のためなんとかドレスを手に入れようとするが・・・・
・・・かーらーの、ほっこりとは無縁の方向へ爆走していくような作品。
キャストで戯言
スペイン作品ということもあり、日本で一般的に名前を知られているような俳優は無し。
しかしコアな映画マニアならば「おおっ!」と思う方が出演しておりますよ。
冒頭にちょろっと、中盤から本格的に登場する元教師ダミアン役はホセ・サクリスタン。スペイン映画では出演本数の多い大竹まこと似のイケオジですな。
そしてかなりチョイ役ながらインパクト大のポペ(ダミアンが獄中で知り合った友人。彼に銃を都合する)役、ハビエル・ボテット。
彼はその身体的特徴(2m超えにして体重45kg・長い手足)を活かしてホラー映画の悪霊役などを多数こなしており、そっち系の作品が好きな方ならば彼と気づかないうちに1度は姿を目にしているはず。
『REC/レック』や『IT/イット"それ"が見えたら、終わり』、『MAMA』、『ドント・ノック・トワイス』などなど・・・・「これCGだろ?」と思えるような異形キャラを特殊メイクのみで演じております。今回は珍しく素の状態で出てきたのでびっくり(笑)
なお「アリシアたんのキャストは誰なの!?…ハァハァ」と興奮しているペド野郎には申し訳ありませんが、彼女(ルシア・ポラン)はほぼほぼ日本での露出は無し。インスタも非公開アカウントだったので無理。大人しく諦めましょう。
予想外
そのタイトル・パッケージ・Amazon Primeのあらすじなどから…
愛する娘に魔法少女の衣装を買ってあげるため、失業中のオッサンが奔走するコミカルほっこり系の物語
…てな想像をしてしまった方も多いことでしょう。ええ、私もそうです。
しかし『切ない親子愛』のストーリーで進むのは序盤だけ。それ以降は親子とは一見無関係の位置で展開する『歪んだ愛』が流れ込み、やがてそれらは奇妙に混ざり合い繋がっていく…という、
魔法少女どこいった!?
と言いたくなるような重っ苦しい展開。コミカルな要素なんてありゃしない。
文学的な表現が多く、白と赤の映像表現(白い肌に赤い血、白い壁に赤いドア、白いワイシャツに赤いネクタイ)を多用するなど、どちらかと言えばフランス映画に近い印象がありあますが、やはりスペイン映画らしくジメジメした暴力表現は健在。
ハリウッド系・娯楽映画に慣れた日本人にはなかなかハードルが高い作品ですなぁ。
あえて映像やセリフでは表現せず、鑑賞者の想像力に委ねるような描写が多数用いられており、見る側の力量が試されるような作品でもあります。
超個人的な考察
前述したようにこの『マジカル・ガール』は『行間を読む』といった文学的な感覚が必要となってくる映画なわけですが、それでは納得しないのが日本人の困った性質。
「アレはなんだったの?」「何が隠されていたの?」の正解を明確に表現してくれないと『意味の分からんクソ映画』の判子を押してゴミ箱に投げ捨てるようなタイプの人は多々おります。まぁそれはそれで個人の感性だから良いですけど。
しかしほんのちょっぴりだけ、わかりづらかった要素を追ってみようじゃないですか。
私も偉そうな事を言えるような立場ではありませんので、小難しい屁理屈は無し。あくまで個人的な考察としてゆるーく…ですけど。
冒頭の手品(メモ)は?
冒頭、若かりし頃のダミアン先生とバルバラの描写。
メモを開いて見せろと要求するダミアンに、バルバラは手の中に入れたはずのメモを消して見せる。
まるでちょっとした手品のようですが、これを”手品”ではなく”魔法”と捉えると『マジカル・ガール』というタイトルに秘められたもう1つの意味が見えてくるかと。
数学教師だったダミアンを虜にし、その言動に辟易しつつも彼女から離れられない夫、そしてダミアンは出所してまだなお呪縛から逃れられない・・・男たちを捉えて離さない魔性の女、バルバラ。
彼女こそが『マジカル・ガール』なのだ…と。
ついでに物語のラストでダミアンも『両手に包み込んだ携帯電話』を消し去ってみせますが、こっちはもはやちょっとした手品を超えたレベル。こりゃ魔法少女ならぬ、魔法オッサンですな。
魔法少女ユキコの曲は?
陰鬱とした内容に対比させるように流れる、やや古臭い印象の『魔法少女ユキコ』の楽曲。
これは長山洋子さんのデビュー曲『春はSA・RA・SA・RA』(1984年)
もちろん魔法少女ユキコは実在しないアニメですので、ググったりアニメイトに足を運んだりしても見つかりませんぞ。
パズルの最後のピースは?
ダミアンのパズルに欠けていた最後のピース。
序盤でルイスがショーウインドウ前でパズルのピースを1つ拾う描写があり、それがダミアンのパズルのピースのようですが・・・これをどう捉えるのかが難しい。
あのショーウインドウはバルバラが住む部屋の真下のため、リアル解釈で『ダミアンがそこ(バルバラの部屋の下)に立っていた』というのもありかとは思いますが、個人的にはそれは無いかと。
ファンタジー解釈で『あの時点からすでに、ルイスはダミアンにとって最後の1ピースとなっていた』てな感じではいかが?ありゃ、ダメですか。
トカゲの部屋とは?ブリキ?
バルバラが金を工面するために訪れた豪邸。
回りくどい説明をするオッサンのせいで何をさせられるのやらチンプンカンプンですが、その雰囲気と発言から『特殊な性癖を持つ者向けの秘密クラブ』のような場所であることは明白。しかもかなりハード系。
1回目の訪問の際に手渡されたカードに書かれた『Hojalata(ブリキ)』という言葉はプレイを止めるためのキーワードで、要するに「もう無理、ギブ!ギブ!!えっと…ブリキ!!ブリキッ!!!」というわけですな。
なにせ本番行為無しで7000ユーロも稼ぐのですから、そりゃヤバいプレイを強要されるのでしょう。
そして肝心の『トカゲの部屋』
前回同様、扉にはカードの入った封筒があるものの、中は白紙。つまり…
プレイを止めるためのキーワードは無い
=自分の意志では出る事ができない
…というわけですな。今度は1日で20000ユーロ(日本円で約250万)ですから、中途半端じゃ済まされない。…やだ怖い。
「いやいや、トカゲの部屋では何があったのか、それを具体的に知りたいんだよ!!」というお子様には申し訳ありませんが、おそらくド変態を自称する私にすら想像を絶するような行為だと思われますのでご勘弁を。
とりあえず、
あんたらが気持ちイイとか楽しいとか思えるようなプレイじゃないよ、たぶん
とだけ申し上げておきましょう…。
超個人的な戯言感想
わたしゃ胸クソ悪い作品や救いの無い作品はわりと好物で、『映画/ファニーゲームUSA』などもおかわりしたくなるような人のはずなのですが・・・この『マジカル・ガール』は無理。辛すぎる。
ラジオの件もちょっと切ないですが、それ以上にラスト直前、アリシアが音楽と共に魔法少女の姿で登場するシーンが・・・。
完全コスプレスタイル(総額約300万円)で電気を消し、ミュージックの準備をし、父が帰ってくるのを今か今かと待ちながら「驚いてくれるかな…」「喜んでくれるかな…」とドキドキしている姿を想像すると、もう苦しすぎて発狂してしまいそうですよ。
『罪もない大人がむごい仕打ちを受ける系』はぜーんぜんへっちゃら、いいぞもっとやれなのに、『子供の純粋な気持ちが悲しみに変わってしまう系』は幼少期のトラウマもあって無理。絶対無理。生まれて初めて映画鑑賞でリアル嘔吐しましたもの。
いやホント、決してつまらない作品ではありませんでしたが、もう絶対見たくない映画でございました。
脳裏にべったり焼き付いて離れない魔法少女姿で、しばらくはダイエットできそうです…。