文明崩壊後、1冊の本を運ぶ男を描く『映画/ザ・ウォーカー』で戯言を。聖書だとか盲目だとか、おもいっくそネタバレているので未鑑賞の方はご注意下さい。
ザ・ウォーカー
2010年 アメリカ
キャスト:
デンゼル・ワシントン
ゲイリー・オールドマン
ミラ・クニス
ジェニファー・ビールス
レイ・スティーヴンソン
マイケル・ガンボン
フランシス・デ・ラ・トゥーア
ロラ・カニンガム
監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
脚本:ゲイリー・ウィッター
ネタバレ無しのあらすじ
戦争により文明が崩壊してしまった近未来。
イーライ(デンゼル・ワシントン)は「本を西へ運べ」という啓示に従い、約30年間歩き続けていた。
道中、独裁者カーネギー(ゲイリー・オールドマン)が支配する町へと立ち寄ったイーライだったが、かねてより『とある本』を探し求めていたカーネギーに本を狙われることに。
執拗なカーネギーの手から逃れ、無事にイーライは西へと本を運べるのだろうか?というか30年も西に歩き続けてたら地球を数周するよね?どんだけ寄り道してるの?もしかして迷ってるの?
…という疑問が最後の最後でなんとなーく理由付けされる世紀末無双アクション映画。
キャストで戯言
主演はデンゼル・ワシントン。
有名作品にも数多く出演していますし、なにより彼自身が超有名ですので余計な説明は不要でしょう。優れた演技力でアカデミー賞を2回受賞(2020年現在)、「黒人俳優」という立場に新たな風を吹き込んだ偉人でもあり、くだらない戯言で弄んではいけない人です。
そして主演級がもう一人。
キチ〇イ爺ぃからダンディ爺ぃまで幅広くこなすゲイリー・オールドマンが、独裁者カーネギーとしてイカレ演技を披露。この人はやはりエキセントリックな役柄がハマりますなぁ。
カーネギーに囲われる盲目の女性クローディアと、その娘ソラーラを演じるのはジェニファー・ビールスとミラ・クニス。それなりに出演映画も多い二人ですが、個人的にはまるで印象に残っていないので「知らん人」気分です。
ついでにおまけ。
ぶちまけたショッピングカートで男を釣る囮役の女性(役名無し)はロラ・カニンガムという女優さん。さらに輪をかけて知らん人ですな。
ここから大事なネタバレを含むよ!!
細かい事を
すでに鑑賞済みの方ならばおわかりでしょうが、本作は何から何まで
ツッコミどころだらけ。
細かい部分を気にしたらキリがないほどに「おかしくね?」がゴロゴロ転がっている映画です。
…が、それで良いのじゃよ。
本作は緻密な伏線や練りこまれたシナリオを楽しむような映画ではなく、あくまで『雰囲気』を楽しむための映画。
『物々交換で成り立つ世紀末設定』を、『やや違和感ありのVFX』で表現し、『イーライがまるでゲームのように無双』する姿を、『独特なコントラストと色味』で楽しませるという、
雰囲気重視のビジュアル作品
ですから。
この手の映画に対し、あーだこーだと指摘するほうが野暮ってもんですよ。つーかそもそも映画に対して過剰に揚げ足取りする事自体がイタいです。
イタい考察
『指摘するほうが野暮』と言ったものの、それでは映画ブログとして面白くないので…
無粋なのは承知の上で、あえて作中に散らばる要素を考察してみましょう。あくまで個人の解釈ですので、これに対してさらにあーだこーだと指摘するのは勘弁ね。
盲目?見えてる?
最後の最後で明かされる、『イーライは盲目だった』という本作最大のどんでん返し。
しかしこれが本作最大のツッコミどころでもあったり。
戦闘時に暗がりへ引き込んでみたり、やけに聴覚や嗅覚が優れていたりといった伏線とも呼べぬ伏線は多数張られていますが、それと知ったうえで再鑑賞してみるとやはり無理がありすぎる。
おそらく全盲というわけではなく、強度の弱視といったレベルではないかと思われます。
しかし最後の顔アップで急に『焦点も合わず、光を失っている』っぽい目をしてくるのは卑怯。お前、物語中はずーっと活き活きした目だったじゃん。
手を見せろ?
作中、人々が相手の素性を探るために使っている「手を見せろ」という行動。
これは食人病として名が挙がることが多い『クールー病』の症状からきていると思われます。
クールー病とは?
パプアニューギニアの風土病。現地フォレ族の習慣でもある「食人行為」が原因として指摘されている。
症状としては「震え」が主で、運動障害を引き起こしたのちに死亡するケースも。
他人を襲って食っているような輩は敬遠される…という事でしょうな。ごもっとも。
30年歩いてきた?
作中の会話によると、戦争による崩壊から30年が経過しているとのこと。1年地下で過ごし、その後地上に出て本を発見し、そこから歩き続けている…とのことですので、厳密ではなく"約"30年という事なのでしょうが、とりあえず『ぴったり30年歩き続けてきた』という前提で話を。
しかしこれ、盲目設定以上にヤバくないですか?
人が1時間に歩く距離は平均4kmと言われています。24時間歩きっぱなしは無理ですから、眠る時間や休む時間も考慮して…仮に1日8時間歩くとしましょう。
すると1日32km。そのまま計算すれば1年で11680kmです。
天候などにも左右されるでしょうし、お腹が痛い日もあるでしょう。いくらイーライと言えども毎日毎日歩いていりゃサボりたくなる日もあるでしょう。少し減らして1年で1万km歩くとしておきます、計算しやすいですし。
そうすると単純計算すれば30年で30万km。地球の一周はご存じの通り4万kmなので、30万km歩いたら地球を7.5周できる計算になります。
もちろん直進を続けられるわけではありませんし、高低差だってある。机上の計算通りにはいかないでしょうが、その半分、いや1/3だったとしても10万kmは歩いているんですぞ。
これが『地球とは無関係の、どこかの惑星の話』であれば全く問題なかったのですが、イーライがたどり着いたのは明らかにアメリカ西海岸のサンフランシスコ。彼がどこからスタートしたのか語られていませんが、おそらくアメリカ国内でしょう。
(Kmartは海外にも支店があるので100%とは言えませんが)
となるとさらにヤバい。地球1周でも4万kmしかないのに、アメリカ大陸は東海岸から西海岸まで約4000kmしかないんですよ。
多少ダラダラしながら向かったとしても、1年もあれば十分到着できちゃうんです。
こりゃもう完全に
寄り道のしすぎもしくは迷子になっている
としか考えられませんな。神の加護により鬼クソ強いイーライも方向音痴なのかなんなのか。いつまで経っても目的地に着かないイーライに神もヤキモキしているでしょうよ。
ここまでくると『イーライは盲目だから時間がかかっている』では納得できないレベルですので、そうですね…
『アルカトラズの施設が軌道に乗るまで、神がなんらかのパワーで旅を遅らせていた』
という事で納得しましょう。あまりに早く到着してしまっても、あの施設がまともに稼働していなかったら無意味ですし。
神は全てお見通し…ってことですな。
超個人的な戯言感想
本当であればもっと考察してみたい部分はあったのですが、野暮すぎるのでこのくらいで。
わたしゃ映画に対して『訳知り顔で矛盾を指摘したがる人』は嫌いですが、『矛盾に感じる部分を想像力を働かせて補完する』という行為であれば、それは映画の楽しみ方の1つだと思うのです。
聖書がたった1冊しか残ってないっておかしいだろ!…ではなく、どういう状況になれば1冊になってしまうのか。
30年歩いて到着しない?おかしいだろ!…ではなく、30年かける必要があった理由はなんなのか。
そういうところに頭を使うほうが、映画がもっと楽しくなると思うのですよ。