久しぶりの更新は『映画/ナイト・ウォッチャー』でネタバレ戯言。サスペンス・スリラーとしては謎もどんでん返しもないため解説も不要、しかしヒューマンドラマとして見ればなかなか見応えのある作品だったり。
まぁ全てタイ・シェリダンとアナ・デ・アルマスが良い仕事をしてくれているからですけど。
ナイト・ウォッチャー
2020年 アメリカ
キャスト:
タイ・シェリダン
アナ・デ・アルマス
ジョン・レグイザモ
ヘレン・ハント
ジョナサン・シェック
監督:マイケル・クリストファー
脚本:マイケル・クリストファー
ネタバレ無しのあらすじ
アスペルガー症候群を抱える青年バート(タイ・シェリダン)はホテルの深夜従業員。
彼は客室に盗撮カメラを仕掛け、人間観察することで自身のコミュニケーション能力の向上を図っていた。
そんなある夜、訪れた一人の女性客をまんまとカメラ部屋へ送り込んだバートだったが、思いもよらぬ殺人事件に巻き込まれてしまい・・・。
・・といった流れで、盗撮ダメぜったいな作品。
キャストで戯言
主演は『映画/レディ・プレイヤー1』でおなじみになったタイ・シェリダン。
その前から子役として多くの作品に出演している実力派俳優であり、今回もアスペルガー症候群と向き合いながら頑張る青年を好演しております。それにしても相変わらず首が太いのう。
そんな彼がズキューンとくるヒロイン、アンドレアを演じるのはアナ・デ・アルマス。こちらも説明不要の人気俳優ですな。
映画素人には『映画/ブレードランナー2049』『映画/007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』が代表作・・・と紹介されるようですが、スペイン映画好きの私にとっちゃアナ・デ・アルマスと言ったら『映画/サイレント・ウェイ』の冒頭で披露するタコ踊り。これのインパクトが強すぎる。
その後女優としてメキメキ成長し、今では素晴らしい演技を披露しておりますが、ハリウッド期(2014~)以降の彼女しか知らない新参者はスペイン期の作品も見て衝撃を受けるが良い。もちろん若いので顔と身体は今以上に破壊力バツグンよ。
ついでにもう一人。
美人な母ちゃん(ヘレン・ハント)が必死に守るタイ・シェリダンにグイグイ迫る、刑事役は名優ジョン・レグイザモ。
この人、20年くらい前から顔変わらんよね。
サスペンス・スリラーではない
冒頭でも書きましたが、本作を『サスペンス・スリラー』だと思って鑑賞すると大失敗。
序盤から終幕まで、全ての流れが鑑賞者の予想通りに展開し、予想通りに終わります。
終盤にハラハラするポイントはあるものの、驚愕のどんでん返しなど一切無し。こりゃ完全に売り方を間違えとるでしょう。
『実は女性客を殺害したのは・・・』
→普通に旦那
『テッドにはさらに秘密が・・・』
→普通に盗撮だけ
『アンドレアの不倫相手って・・・』
→普通に旦那(2回目)
『この二人は何を企んで・・・』
→普通にテッドになすりつけるだけ
…の展開ですからな。
『終盤の回想シーンで真実が明らかになる』というのはサスペンスではド定番ですが、本作の回想するシーンはそのまま過去の映像を再び見せるだけ。
サイコ感すら匂わせている予告編動画は完全に詐欺よ、詐欺。
この映画で味わうべきはドキドキハラハラの展開やビックリドッキリなどんでん返しではなく、アスペルガー症候群のテッドが自らの症状を克服しようと努力し、成長していく過程。
つまり…
完全ヒューマンドラマ
として鑑賞するのが吉なのですな。ところが余計にサスペンス色が入っているせいで気が散るったらありゃしない。
録画(ネクタイで盗撮)を使ってアンドレアと再び会話し、自分の改善点を模索しながら何度もやり直すテッド。
これは次に失敗しないための努力であり、彼が『失敗した時間を取り戻そうとしている行為』でもあります。ここだけで泣けてくる。
さらに母と共に食事をしようとするシーンなんて、涙腺が崩壊するじゃないですか。
いやホント、イイところは実にイイ感じに描けているのですよ。
さらに本作最大の山場。
終盤にバートが銃を手にし、「おいおいバート、まさか…」と思ってしまうハラハラシーンですな。
ここのタイ・シェリダンも素晴らしすぎる。
彼の視線や心の内を表現している表情だけで、どんぶりメシ3杯は喰えますな。
幸い、鳴り響いた銃声は彼の自決の音ではありませんでしたが、なにやらここを「じゃあなんのために撃ったの?」とか「自決に失敗した」とか思っている方がいるようで。
あれは画面に映ったアンドレアを撃っており、彼女への想いを断ち切ったという行為です。もちろん彼の表情から察するに、自ら命を絶つことも考えたでしょう。
うーむ。
やはり序盤からサスペンス調の匂わせ演出など用いず、ストレートに描いたほうが良かったのでは…。
超個人的な戯言感想
いつも言いますが、映画の感想は人それぞれ。誰かの評価でその作品の価値は決まらんし、誰かの感想が全ての人間に当てはまるものでもありません。
本作をサスペンスとして楽しめた方はそれで良いでしょうし、どんでん返し感を味わえたというならばそれで良いかと(どこにあったのかは知らんけど)。
アナ・デ・アルマスがほんの一瞬とはいえナマOPPAIを披露してくれるので、そこに価値を見出すのもアリでしょう。
いやー、まさかあそこで出してくるとは思わんかったね。思わず二度見しちゃったよ。一時停止しようかと思ったよ。
…というわけで。
最後に彼がコミュニケーション練習をしながら明るい場所を歩いていく姿。
正直これを見て「ああ、彼もいつか普通に生活できるようになるだろうな」というハッピーエンド気分にはなれません。現実はそんなに簡単ではないし、甘くもありませんから。
しかしそういった部分でも、悲しさではなく切なさが残る良き作品だったのではないかと。