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権力を持つと人は腐るもの。それが本人ではなく親の権力、いわゆるボンボンのジュニアならばなおさら…というわけで実話に基づく『映画/デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』でネタバレ戯言を。

ただし「ウダイの影武者だった」と主張するカティフ・ヤヒアの言動そのものが信憑性が薄いとの指摘もありますので・・・どこまで本当か私にゃわかりません。

デビルス・ダブル
ある影武者の物語


2011年 ベルギー

キャスト:
ドミニク・クーパー
リュディヴィーヌ・サニエ
ラード・ラウィ

監督:リー・タマホリ
脚本:マイケル・トーマス

ネタバレ無しのあらすじ

イラクの偉大なる父、サダム・フセインの長男として生まれ、その権力で自らの欲望のままに生きていたウダイ・フセイン(ドミニク・クーパー)。

そのウダイに瓜二つだったラティフ(ドミニク・クーパー)は、ウダイの影武者として生きる事を強要される。

断固拒否していたラティフだったが、従わなければ家族にまで危険が及ぶために渋々承諾。しかしウダイの生活はあまりにも狂気に満ちており…。

・・・といった内容で頑張れ一人二役の作品。

実話…には諸説あり

本作に登場する「サダム・フセイン」「ウダイ・フセイン」が実在の人物である事は言わずもがな。現代っ子にはやや馴染みが薄いかもしれませんが、昭和~平成初期生まれにとっては『フセイン』『湾岸戦争』等は連日のニュースで嫌でも耳に入ってきたため、馴染み深い出来事でもあります。

そしてウダイの影武者として生きることを余儀なくされた「ラティフ・ヤヒア」、この人も実在の人物。

彼は自伝本『デビルズ・ダブル(The Devil's Double)』にて『自分はウダイの影武者であった』と告白。この自伝本が本映画の原作となっています。

しかし彼の主張には疑わしい部分もあり、ラティフが影武者であった事実などない…とするメディアも。

なんにせよ本当であることを証明するのも、それが嘘だと証明するのも困難ですし、メディアも識者もあなたも私も、真実を見たわけではない。結局のところは…

実話を基に…とされているが、本当かどうかはわからない

…という事です。

ただし「ウダイが好き勝手に欲望にまみれた生活を送っていた」という部分に関しては、あちこちの記録にそりゃもう酷い武勇伝が残っていますので、真実なのでしょう。

ちなみにラティフの主張が全て本当で、彼の本に書かれた内容が全て真実であったとしても、映画と原作では異なる部分が多々あります。

作中のエピソードや主要以外の登場人物などは創作の部分が多いようですので、細かい部分に至るまで「こんな事が本当にあったんだ…」と鵜呑みにするのは危険。世に溢れる「実話ベースの映画」はほぼ全てそういうもんです。

俳優・一人二役、いや三役

本作にてウダイとウダイの影武者ラティフを演じるのはドミニク・クーパー

少々芝居がかってはいるものの「ウダイ」と「ラティフ」をしっかり演じ分けており、同じ顔でもどちらなのか判別は可能。

そして「ウダイのマネをしている時のラティフ」が、決して「ウダイ」と同じ演技ではないところが素晴らしい。すなわち…

『ウダイ』『ラティフ』『ウダイを演ずるラティフ』の3つの演技を使い分けており、鑑賞していてこれらを判別できるところがスゴい。もはや一人二役ではなく一人三役と言っても良いのではないかと。

キャストの話になったのでついでにもう一人。ウダイの情婦にしてラティフとも関係を持つサラヴを演じているのはリュヴィディーヌ・サニエ

フランスを代表する有名女優でもありますが、この人ちょいちょい顔ひどくないですか?「あんた薬でもキメてんの?」と聞きたくなるような口のひん曲がり具合が非常に気になります…。


ここからネタバレを含むよ!!

実話?創作?

耳慣れない人物名と間延びした展開で序盤~中盤が少々つらいものの、後半に近づくにつれ緊迫感がぐいぐい上昇。それ共にウダイのエグい行為も急上昇。

下校中の女学生をナンパしてヤリたい放題の末に遺棄…は、まぁ絶大な権力を持ってりゃそのくらいはやるでしょう。私だってしますよ、このくらいなら。

しかし『結婚式中の花嫁をさらって陵辱。しかも階下ではまだパーティの真っ最中』ってのはエグすぎる。人より鬼畜に理解のある私でも「ちょ、ウー君やりすぎにもほどがあるって…」と止めたくなる所業。花嫁さんが可愛そうで見ちゃいられませんよ。

このあたりを細部に至るまで『実際にあった出来事』として信じ込むか、『あくまでも映画的な創作』として捉えるかによって、この映画の評価や感想が変わってくるところかと。

さらに『実話の再現』ならば仕方ないと納得できるが、『映画』として見れば辻褄の合わない部分や説明不足な部分も多々あり、このあたりもどう判断してよいのか迷うところ。

終盤、ウダイを暗殺しようとするラティフ(と、花嫁を殺された夫。そして腹心であるムネム)ですが、史実でも原作(ラティフの自伝本)でもラティフが直接ウダイ暗殺を実行したという事実はありません。映画的な演出です。

注)ウダイ暗殺未遂は複数回発生していますが、映画でのこのシーンは1996年に起きた「イラク民主化を掲げる組織による暗殺未遂事件」を基にしているようです。

なにせ暗殺は未遂になってしまっているのですから、これではラティフが逃げたとしても残された母や妹たちがどんな目にあうことか。「ラティフはアイルランドで妻子と暮らす姿が目撃されている」なんてテロップ出されても安心できませんよ。

さらにサラヴに関しても「本当に裏切ってたの?」「結局、娘はいるの?」「この人が言っている事、どこまで本当の話なの?」が消化不良のまま映画は終了。

映画的にもう少し掘り下げれば「権力に翻弄された不遇な女性」として描けたであろうものを、中途半端にキャラ設定して使い捨てたために「単なる嘘つきビッチ」の感が否めず。

映画全体として惹きつける部分も持っていながら、このどっちつかず感が非常に惜しい気がします…。

超個人的な戯言感想

本作の監督であるリー・タマホリはハードボイルド・犯罪系を得意としながらも「おい!あの設定どこいった!?」とツッコミどころのある作品が多い監督ですので、物語全体の雰囲気を楽しみつつ細かいことはあまり気にしない…という鑑賞スタンスが良いかと。

そう考えればこの『映画/デビルズ・ダブル』は及第点。実話ベースという事は一旦忘れ、あくまでもエンターテイメントとして観るのが良いような気もします。

まぁ人によっては「実話が基になっているからこそ、ウダイの狂気が恐ろしく感じるんじゃないか」という方もおられるでしょうから、そのへんは人それぞれという事で。

なにはともあれ、ドミニク・クーパーの好演もあり『影武者モノ映画』としてはそれなりに楽しめる映画でした。変にデカすぎるボカシ処理はちょっとアレでしたけどね…(笑)