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今回の1本は『映画/エスケーピング・マッドハウス』、ネタバレや結末を含むので未鑑賞の方はご注意下さい。「実話がもとになっている」という点が衝撃でしたが、それがなければかなり厳しい部分が多い作品かと。

ところがその「実話」という部分も、肝心なところが実話ではなかったり…。

エスケーピング・マッドハウス


2019年 アメリカ

キャスト:
クリスティナ・リッチ
ジュディス・ライト
ジョシュ・ボウマン
アンニャ・サヴィッチ

監督:カレン・モンクリーフ
脚本:ヘレン・チャイルドレス

ネタバレ無しのあらすじ

ニューヨーク、ブラックウェル島の精神病院に収容されたネリー・ブラウン(クリスティナ・リッチ)は、自分の名前以外の記憶を失っていた。

唯一の理解者とも言えるジョサイア医師(ジョシュ・ボウマン)の助けを得ながら記憶を取り戻そうとするネリーに対し、グラディ寮長(ジュディス・ライト)をはじめとする職員は「治療」という名の虐待を繰り返す。

果たして彼女は無事に記憶を取り戻し、この狂った病院から抜け出すことができるのだろうか。

・・・といった内容の作品。Amazonのあらすじは絶対に読んじゃダメ。

注)予告編動画は英語版

キャストとあらすじで戯言

主演は元・名子役のクリスティナ・リッチ。相変わらず背が小さいねぇ、あんたは。

そして彼女以外、有名な俳優は出演しておりません。

それよりも何よりも「あらすじ」ですよ。本作をAmazonPrimeで閲覧した方も多いと思うのですが、そこに書かれているあらすじはヒドいにもほどがある。なにせ…

ネリーの正体を完全ネタバレ

しているという(笑)

AmazonPrimeのあらすじは日本語が変だったり、余計にネタバレていたりする事が多々ありますが…ここまで作品を台無しにしているあらすじは稀ではないかと。

すでに鑑賞済みの方はぜひご覧になって笑いながらツッコミを入れて下さい。未鑑賞の方は読んじゃダメですよ。


ここからネタバレを含むよ!!

食材は良いが料理が下手

全く知識のない方が見れば「これが病院!?治療!?おかしいでしょ、ただの虐待じゃん!!」と憤りを感じるのでしょうが、有名なところでは『映画/アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち』、その他作品でも19世紀末~20世紀初頭の精神科病院を扱った映画は多く、映画好きもしくはある程度の知識のある方であれば『昔の精神科はこんなもん』というのは当たり前。むしろ本作の描写はヌルすぎるくらいですよ。

しかしそこに『記憶喪失』というスパイスが加わることで物語に深みと興奮が…と言いたいところですが、残念なことに作りがひどすぎる。

構成が雑なうえに不自然なセリフ、苦しい展開や矛盾も多く、ひどいところでは同シーンでカットごとに人物の立ち位置が逆になっていたりも。

おそらく劇場版ではなくテレビ映画を繋げていると思われ、明らかにCM用のブツ切り部分があったり、物語が中盤を過ぎているというのに不意に『ブラックウェル島 精神病院』というテロップを出してみたり…。いやいや、何をいまさら(笑)

決してプロットは悪くないのに脚本がヒドい。さらに監督もダメで製作もどうかしている…という、もはやどうにもならん空気を感じます。もう少し上手な人間が手掛けていれば、かなり面白い作品になった気もするのですが…。

しかしそれでも最終的に「なかなか面白い作品だった」と思えるのは『これは実際にあった話であり、ネリー・ブラウン(ブライ)も実在の人物』という衝撃ですよ。

ええ!?こんなことが本当にあったの!?一人で精神病院に潜入して、記憶がなくなって、でも実はたった10日の出来事で、それでも生還したの!?

…という驚きが、本作の評価をダダ上げしているわけです。

ところが映画における『実話を基にした』というのはかなりのクセモノでして。

描かれた内容の端から端まで、全てが実際に起った出来事だと思い込む方がよくいますが、そんな作品はほぼありません。映画という性質上、必ず何かしら創作の部分が混じっています…というか、世に存在する「実話ベースの映画」のほとんどは創作部分のほうが多いのです。

そう、本作も全てが実話というわけではないのですよ…

どこまで実話?

映画の最後に本人の写真が出てきたことからもわかるように、ネリー・ブライという女性は実在します

1864年に生まれ、アメリカ合衆国でジャーナリストとして活動し、本名はエリザベス・ジェーン・コクラン。

そして作品の舞台となったブラックウェル島(現ルーズベルト島)も実在し、そこに精神科病院も本当にありました

そしてその病院にネリーが10日間の潜入取材をしたというのも事実

しかしこの映画で事実に基づいているのはそこまで。そう、そこまでなのです。

つまり…

  • 『ネリーが記憶を失った』
    →映画的な創作
  • 『ヒドい寮長やキモい精神科医』
    →劣悪な環境や虐待があったのは事実だが、実在の人物がモデルとなっているわけではない。
  • 『最後に再び記憶喪失にされそうになった』
    →だから記憶喪失そのものがフィクションだってば
  • 『最後は愛する人の助けで脱出できた』
    →ワールド社からの依頼で弁護士が交渉し、退院。当時ネリーは独身で恋人の存在は不明。

…と、現存する記録から判断すると多くの要素が創作だったようです。

そりゃそうでしょう、「おいおい、そんな簡単に都合よく記憶が消せるか?」とか思いませんでしたか?

さらにネリー・ブライ(エリザベル・ジェーン・コクラン)という人物を調べてみると、どうにも虚言癖と言いますか…なにかにつけて嘘をつくことが多い人だったようで。

まぁ女性の権利が認められていない時代、その身一つでジャーナリストとして活動したことは称賛に値するでしょう…としておきます。

個人的な戯言感想

先程も書きましたが、とにかく『食材は良いが調理が下手』の一言に尽きる。実にもったいない。

せっかく実話が元となっているのだから余計に「記憶喪失」などというフィクションを入れず、もっと真正面から骨太に描いたほうが感動できたのでは…と思いますなぁ。

まぁ笑えるほどチープなVFX描写から察せられるように、そこまで気合(と予算)を入れた作品ではなかった…という事でしょう。クリスティナ・リッチが主演でなかったら完全にB級映画の括りに入っていたと思いますし。