注)当記事は『映画/パッチ・オブ・フォグ』のネタバレ・考察・解説・感想を含みます。未鑑賞の方はご注意下さい。
今回の1本は『映画/パッチ・オブ・フォグ 偽りの友人』、日本では劇場未公開作品となります。
キモい粘着ストーカーものですが、ストーカーされるのは美女でもイケメンでもなく…恰幅の良いオッサン。そこにまとわりつくのも…くたびれたオッサン。
ダブルオッサンが繰り広げる、切なくもヤバい友情のストーキングストーリーです。いや、これを友情と呼んで良いものやら…。
パッチ・オブ・フォグ
2015年 イギリス
主なキャスト:
コンリース・ヒル
スティーヴン・グレアム
ララ・パルヴァー
監督:マイケル・レノックス
脚本:マイケル・レノックス、ジョン・ケーンズ
ネタバレ無しのあらすじ
ベストセラー小説の著者であり大学教授も務めるサンディ(コンリース・ヒル)は、地位と名誉と収入に恵まれた何不自由ない生活を送っていた。しかし彼には「万引き常習者」という誰にも言えない秘密が…。
ある夜、いつものように1本のペンを万引きしたサンディだが、その瞬間を防犯カメラに捉えられてしまう。
しかし彼を捕えた警備員ロバート(スティーヴン・グレアム)は「自分と友達になること」を条件にサンディを放免し、友人として一方的にサンディに付きまとい始める。
エスカレートしていくロバートからの執着心を疎ましく思ったサンディは、どうにかして関係を断とうとするのだが…
・・・・といった内容の作品。
注)動画は予告編ではなく冒頭一部カット版になります
予想外に深い
私はこの作品を選んだ時、正直あまり期待していなかったんです。むしろ「B級のつまらない作品」である事すら覚悟していました。
ところがフタを開けてみりゃ予想外。グイグイ引き込む良作じゃないですかっ。
『勘違いした男⇒美しい女性』のストーカー行為であれば普通にキモいだけで終わるのですが、そうじゃないからこそ奥深く、そうじゃないからこそなおキモい(笑)
何かをこじらせたまま大人になってしまったオッサンが、地位も名誉もあるオッサンに対して抱く一方的な友情。「キモいよコイツ、なんなんだよ」と見下しつつも、実はストーキングされる側のオッサンもこじらせていたという…。
なんだよコレ、名作かっ!
…と言いたくなるような奥深さです。
ココからネタバレを含むぞ!
ロバート
ストーカー系映画は「ストーキングする側」をただただ気持ち悪く描く事が多いじゃないですか。私が大好きな『映画/P2』のサムとかね…。
相手の気持ちを全く汲めない勘違い野郎として描かれるストーカー野郎は、鑑賞者にとっては「一般人には感情移入し難いキモ男」であることが大半です。
しかし本作のロバートはちょっと違う。だってものすごくピュアなんですものっ!
いや、たしかにキモいですよ。『初めての乾杯のグラス』とか『初めてのコーヒーのフタ』とか・・・「いやー!!」と叫びたくなるような、キショい記念コレクションを保管していたり。
しかしあなたも身に覚えがありませんか?初めてのデートで行った映画の半券とか、好きな子に貰ったチュッパチャップスの棒とか…大事に大事にとっておいたりしませんでしたか?…私も青い頃はそういうの保管しておく人でした。
まぁ彼の場合はそれが『オッサンとの思い出』ってのがヤバいんですけどね(笑)
友人のいない彼はサンディという友人ができた事が心から嬉しくて仕方がない。その純粋な気持ちだけは痛いほど伝ってきます。
たしかにちょっと勘違いしているところはありますし、「友人の作り方」がそもそも間違ってはいるんですけどね…。でも実際いますよね、ロバートのような人。
私も数人、リアルに思い当たる人がいます。嫌いじゃないし、嬉しい気持ちはわかるんだけど…そんなにグイグイこられてもちょっと困るんだよなぁ…。しかし邪険にするのも可哀そうなんだよなぁ…と悩ましい知人が。
サンディ
さてストーキングされる側のサンディ。しかしコイツがまた…。
ストーカー行為の被害者という立場ではあるのですが…あまりにも傲慢、自らの保身ばかり、平気で嘘をつく。そんな姿に全く同情できません。そして、その顔っ!!目がキラキラしたパグみたいな顔も嫌です(笑)
彼も何かが歪んだまま成長してしまった人間ですので、理解できる部分はたしかにあるんです。しかし…うーむ…。
物語後半、彼は新聞を買いながらレジ横にあったライターを盗みました。その時素手だった事に気づき、意味ありげな表情を浮かべます。
アレは「あ、素手だった。指紋残っちゃう」とかではなく、それまでは『盗み』という行為に『手袋』という一枚を隔てる事で、彼の中で何か一線を引いていたのでしょう。
ちょっと言葉では説明しづらいのですが…自らの手で直接行わない事で「自分は泥棒ではない」という精神的な逃避であったり、自己弁護であったり…。
しかし精神的に追い込まれ、無意識に素手のまま盗みを働いてしまった。自分はそういう人間だ、という事が露呈してしまった。そういうシーンなのではないかと私は考察しました。
隠れた良作
粘着するロバートに対し、小細工と嘘を弄して対抗しようとするサンディ。
彼らのせめぎ合いは非常に面白かったです。ロバート宅に侵入し家財を荒らした動画をそんな手段で切り返してくるとは…くそう、やるなハム夫。伊達に太ってないな…。
作品中での小説『一面の霧』は架空の本ではありますが、随所にその一文を織り交ぜて展開されるストーリーもなかなか良かったです。
最後、ロバートを殺してしまい涙を流すサンディ。
あの涙はもちろんロバートに対してではなく、自分に対するもの。最後の最後まで彼はロバートに対して『偽りの友人』でした。
なんともやるせない作品ではありますが、鑑賞者に何かを残す名作だと思います。バーン!とインパクトのあるスッキリしたメッセージではなく、モヤーっとした気持ち悪い何か…ですけど(笑)
まだ未鑑賞の方がいれば、ぜひ観ていただきたい1本です。
「キモい」と「エモい」を同時に味わえる、味のある映画ですよ。