往年の人気はどこへやら。今やB級作品の客寄せパンダがよく似合うニコラス・ケイジ主演『映画/マッド・ダディ』、物語の意味と考察・ネタバレに触れますので未鑑賞の方はご注意下さい。
『ススムちゃん大ショック』に関しては後ほど説明します。
マッド・ダディ
2017年 アメリカ
キャスト:
ニコラス・ケイジ
セルマ・ブレア
アナ・ウィンターズ
ザカリー・アーサー
オリヴィア・クロチッチア
ランス・ヘンリクセン
ボキーム・ウッドバイン
監督:ブライアン・テイラー
脚本:ブライアン・テイラー
ネタバレ無しのあらすじ
両親と子供二人、それなりに幸せに暮らしているライアン家。
父ブレント(ニコラス・ケイジ)は二人の子供に恵まれ、家族を愛しながらも少しづつ枯れていく人生に不満を感じていた。
母ケンダル(セルマ・ブレア)も家族への愛はあるものの、まるで通じあえない娘と冷えてきた夫との関係に虚しい気持ちを隠せずにいた。
娘カーリー(アナ・ウィンターズ)は難しいお年頃で、弟ジョシュ(ザカリー・アーサー)はやんちゃ盛り。
そんなありがちな家庭に不意に訪れた、世にも奇妙な現象。なんと世間の親たちが突然「自分の子供を殺したい」という衝動に襲われ始まったのだ。
果たしてライアン家はどうなるのか?
・・・とった設定から、親の本音を過剰にあぶり出す作品。
キャストで戯言
予告編で「ここ十数年で最も気に入っている出演作」などと書かれているものの、本当にそんな発言をしたのかは不明ですが、とりあえず「あんたB級映画だからって適当すぎないか?」と問いただしたくなるような演技を見せてくれるニコラス・ケイジが主演です。
原題は『Mom and Dad』(ママとパパ)というセンスの良さであるにも関わらず、『マッド・ダディ』などというクソ邦題をつけ、『とりあえずニコラス・ケイジの知名度で押せば良いだろう』という短絡的な売り込み方はどうかと思いますが、まぁ邦題を考える人の頭なんてそんなもんです。
映画としてはどちらかと言えばパパよりもママのほうがメインで、演じているのはセルマ・ブレア。映画出演はややB級寄りなところがありますが、魅力溢れる美人女優ですよ。
そんなMomとDad以外は、主要どころの娘と息子も含めてほぼ無名俳優のオンパレード・・・かと思いきや、祖父役はなんとランス・ヘンリクセン。『映画/エイリアン』シリーズでビシャビシャと牛乳を吐き出す人造人間、ビショップを演じた方になります。懐かしいっ。爺ぃになっても面影ありますなぁ。
ついでに保護者にまぎれてボキーム・ウッドバインがカメオ出演しており、『映画/早熟のアイオワ』に続いてセルマ・ブレアと再共演でした。一瞬ですけど。
ススムちゃん大ショック!
当記事のタイトルにも出ている『ススムちゃん大ショック!』、おそらく大半の方が「なんじゃそりゃ?」と思った事でしょう。さらっとご説明しますと…
ススムちゃん大ショック!とは?
天才とキ○ガイは紙一重…を体現する漫画家・永井豪が1971年に発表した傑作にして問題作の短編マンガ作品。
「ある日突然、大人達が子供を襲って殺し始める」という、まさに「映画/マッド・ダディ」に酷似した設定から始まり、ショッキングな内容でとことん押し切る素晴らしきキッチー漫画。
…ということです。
本作の監督・脚本を務めたブライアン・テイラーがこの漫画の存在を知っていたかどうかは謎ですが、『突然大人が子供を殺し始める』という設定が共通。ただし作品として訴えてくる方向性は異なります。
気になる方はぜひ一度読んでみて下さい。なんとも言えない衝撃が残る作品ですよ。
なお購入した場合は家族に見つからない場所に隠しておかないと、あらぬ心配ををかける事になるので要注意。
ネタバレ1分あらすじ
「急に親が子供を殺し始める!」という設定のインパクトで最後まで押し切るような作品ですので、あらすじとしてはシンプル。
ネタバレ1分あらすじ
そこらへんによくあるタイプの家庭、ライアン家。
ある日、なんの前触れもなくブッこまれる「親が自分の子供を殺したくなりました!」という設定。
学校へは親が殺到し、街も大騒ぎ。
ライアン家でも、帰宅した娘カーリーが弟ジョシュを守りつつ父母とせめぎ合うことに。
しかも今日は祖父母まで遊びに来ることに・・・あれ?祖父母?ということは…そう、祖父母は父の両親じゃないか!
…というわけで、祖父母は息子である父ブレントに襲いかかる!ブレントは息子のジョシュに襲いかかる!…という二段階の大乱闘。ここが一番の盛り上がり。
結局祖父母はリタイア。父母も子供たちの手痛い反撃に遭い、縛り付けられることに。
身動きが取れないブレントとケンダルは、子供たちの前で涙ながらに訴えるのだった。
「私達は子供を愛している、愛しているが、それでも時々どうしても…!!」
…といった具合で、「え、これで終わり!?」と思ってしまうようなケツの締め具合で終了。
そのまま表面だけ見てしまえば「なんじゃこりゃ。クソ映画じゃないか」と一笑に付されて終わりにされてしまいそうな作品でもあります。
考察とテーマ
本作を純粋に『ホラー』もしくは『スリラー』のつもりで鑑賞を始めてしまうと、そりゃもう困惑。
なにせ序盤から
- 一周回ってダサすぎるオープニングクレジット
- 斬新さを狙っているのは理解できるが、狙いすぎで萎える演出
- 独特さを狙っているのは理解できるが、もはやスベっている音響
- 個性的を狙っているのは理解できるが、単に意味不明な構成
…と、厳しすぎる要素が連発。
このあたりが上手で上質な映画であれば『いったいどういう事だろう?これは後からどう繋がるのだろう?』とドキドキ楽しむ事ができるものの、下手クソなB級作品になるとただただ『意味わからんし、見づらくてつまらん』で終わり。そしてこの映画は後者寄りです。
しかし物語が進むにつれて不可解だった演出や回想の意味が繋がり、
子を持つ親の心情を大げさに表現したブラックコメディ
という、この映画本来の姿が見えてくると、これまたなんとも言えない気分に。
たしかに…
ある程度ルックスにも恵まれ、それなりに若さを謳歌してきた者にとって「加齢」というのは実に残酷。本当に虚しいもんです。
日に日に男(もしくは女)としての魅力は薄れ、若かりし頃の胸踊るような日々はどこへやら。『家族と子供』という新たな幸せが手に入ったと自分に言い聞かせるも、現実はそう幸せばかりではない。
いつしか単なる「パパとママ」という役割を演じるだけの存在となり、自分をすり減らしながら世話をしてきた子供たちは成長するとまるで異星人。もはや言葉が通じているのかすら疑わしく、殺したくなるほど憎々しい気持ちになるのも…ありえる話。
しかしやはり子供への愛が勝り、ブレーキがかかるのが一般的な親なわけですが、そのブレーキをブッ壊して加速させたら…というわけですな。
あんなに一生懸命に組み上げたビリヤード台を自らの手でブチ壊しながら訴えるブレントの姿に、「あー、こういう気持ちわかるわー」と思った男性も多いのではないでしょうか。私もです。
超個人的な戯言感想
…とまぁ、それなりに狙いはわかるものの、『どうして親達が子供を襲うようになったのか?』『あのテレビのノイズは?』といった部分は完全にぶん投げっぱなしの『映画/マッド・ダディ』
超個人的な感想としても、正直「面白かった!」とは言い難いところです。
祖父母が到着してから急にテンポが良くなり、スッ飛んでいく祖母と車内から見上げるブレントの目が合うくだりで「ブラボー!!」と興奮もしましたが、時すでに遅し。あとは一気に失速して尻すぼみに終了するだけでした。せめてもう少し早くエンジンがかかっていれば…と惜しい気がします。
なにはともあれ、ニコラス・ケイジ演ずるブレントが若かりし頃に思いを馳せる姿はとてもシンパシーを感じましたし、彼がやたらとこだわる「万能ノコギリ」もツボりました。私も愛用していますから、コレ。(あちらはバッテリー式でしたが私のは電源式)
日曜大工にも大活躍ですし、庭木の枝から幹まで簡単に切断できてめちゃくちゃ便利なんですよ。人を殺して解体する際にもたいへん役立つと思いますので、そういった予定がある方は足がつかないよう早めに買っておきましょう。