映画「ビザンチウム」淡い吸血鬼モノ…されど良作(ネタバレ有)
アメリカと言えば「ゾンビ」、そしヨーロッパ圏と言えば「ヴァンパイア」です。血ぃ吸うたろかーの吸血鬼です。
ゴリゴリのアクションで血がブシャー!の吸血鬼モノも多いですが、こういった「女目線のモヤモヤした吸血鬼モノ」も、それはもう大量にあります。
たまにはこんな映画もアリかな・・という事で観てみました。「映画/ビザンチウム」です。
ビザンチウム
(原題:BYZANTIUM)
2012年 イギリス・アイルランド合作
主なキャスト:
シアーシャ・ローナン
ジェマ・アータートン
サム・ライリー
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
監督:ニール・ジョーダン
脚本:モイラ・バフィーニ
原作はモイラ・バフィーニ作の舞台劇
ネタバレ無しのあらすじ
放浪生活の果て、寂れたリゾート地にたどり着いた16歳の少女エレノア(シアーシャ・ローナン)と8歳年上のクララ(ジェマ・アータートン)。
若いウェイター、フランク(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と知り合ったエレノアは彼に自分に似た孤独を感じ、親近感を抱く。一方クララは内気な青年ノエル(ダニエル・メイズ)を言葉巧みに丸め込み、彼の所有する老朽化したゲストハウス「ビザンチウム」を売春宿とすることで生活の糧を得ようとする。
しかし二人の正体は、200年の歳月を生きてきた「不老不死の吸血鬼」だった・・・。
・・・といった内容の作品。
キャストと設定で戯言
この映画をシアーシャ・ローナン目当てで鑑賞した方は多いと思います。たしかに「透き通るような美人」という言葉が良く似合う、儚さのある美しさ。
ボインボインのおっぱいをブルブルさせながら、ギャーギャーと偉そうに喚き散らしてくるアメリカ女優にはない魅力を持っています。
そのルックスと雰囲気から、薄幸な役柄が多いですよね、彼女。
そして相変わらずのケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。いつ見てもどこか病気っぽい雰囲気を出している彼は、今作では「白血病」との事。「映画/アンチヴァイラル」といい、変な役多いよね、この人も。

ケイレブ・ランドリー・ジョーンズのヤバい病気感を観たいなら、この変な映画を観るといいぞ!!
ビザンチウム
ビザンチン帝国
映画タイトルになっている「ビザンチウム」という言葉はイスタンブールの古代名称でもありますが、「この映画ではそちらとは関係なく、ゲストハウスの名である」とされています。だからそのゲストハウスがそこから名付けたんじゃないの?・・・とも思いますが「関係ない」と言ってるんだから、そう納得しましょう。イロイロ事情があるのかもしれませんし。
ラストに持ってくるエゲつない形状のビザンチン帝国の剣ですが、その「ビザンチン帝国」というのも旧東ローマ帝国の別称となります。
そのへんは詳しく説明するともっと複雑な話になるのですが、「関係ない」という事ですので気にしないようにしましょう(笑)
今作での吸血鬼
吸血鬼、ヴァンパイアはたびたび映画に出てきますが、100%共通なのは「血を吸う」という部分くらい。あとは作品によってちょっと設定が違ったりします。
この『映画/ビザンチウム』の吸血鬼の設定を見てみますと・・・
・血を吸う
吸血鬼といえば、首筋に噛みついて吸うのが一般的ですが・・・この映画では「爪が1本だけ伸び、それを刺して溢れる血を吸う」という、ちょっと斬新な吸い方になっています。場所は首だけでなく、手首からでも良いようです。
この吸い方だと「いかにもホラー!」という見た目ではなくなり、作品全体のトロトロした乙女感にマッチしていて良い感じですな。
・日光は平気
日光に当たると燃えあがったり灰になったり盛大に死ぬ吸血鬼も多いですが・・・今作では日光は平気。暗闇を好む・・とは言っているものの、太陽の下でも日常生活を送れるようです。
・招かれないと入れない
これ、日本ではあまり一般的に知れ渡っていませんが、吸血鬼は「初めて訪れる家では、家人の招きがないと入れない」という設定があります。
「映画/ぼくのエリ 200歳の少女」や、そのリメイクである「映画/モールス」でも描かれていた要素ですね。
ビザンチウムに最初に到着した際、ノエルに「入って」と言われるまで二人がバカみたいにドアの前で突っ立っていたり、物語終盤にフランクの家を訪れたクララが同意を得ようとした部分などがコレです。
これ、どこまでが「許可が必要な家」とみなされるんでしょうね。店や病院には普通に入っているようですし。個人所有の建造物、とかそういう括りになるんでしょうか・・・。まぁファンタジーな要素に細かい事言っちゃダメですね。。。
・その他のお約束
この作品中には聖水も十字架もニンニクも出てきませんので、そのへんは不明です。
たしかに「ニンニクに苦しむシアーシャ・ローナン」とか見たくないです(笑)
全体的に漂う少女漫画感が・・・
冒頭でも書きましたが、吸血鬼モノって「映画/トワイライト」シリーズとかの、女性が好みそうな愛だの恋だのを織り交ぜた作品と、純粋にモンスターとしての吸血鬼作品とに分かれますよね。
私は淡いメルヘンなどとは対極の位置に生息する生き物ですので、前者のようなモヤモヤした吸血鬼モノは正直苦手です。どちらかと言えば「殺せ!犯せ!ふはははは!」な吸血鬼のほうが仲良くできそうな気がします。一緒に飲みに行ってみたいです。
この映画も比較的前者タイプなので、作品全体が雰囲気重視というか・・ご都合主義というか・・・デリカシーの無い中年男が細かい事を言ってはいけない空気が漂う映画です。
しかし不意に時系列が飛びながらも、それを現在と上手にクロスさせたり…細かい理由をすっ飛ばした展開になりながらも、それがテンポの良さに繋がっていたり・・・決して「ツッコミどころ満載の駄作」にはなっていないところ素晴らしい。
「同盟」による吸血鬼社会がひどく男尊女卑な点に対して批判の声も多くあがっているようですが・・・歴史的な観点から見ると、ごく自然な事だと思います。そういう思想を現代もずっと守り続けているところに「同盟」の古臭さというか、歴史に取り残された様を感じる事もできます。
二人の吸血鬼
R15指定の映画となっていますが、ショッキングなシーンは「生首が2回転がる」といった程度。あとは純粋に血の描写です。
エレノアの吸血のシーンは美しく描かれていますし、グロいのが苦手な方でも大丈夫かと思います。ただし、多少控えめではあるもののクララの吸血は「古き良き吸血鬼」といった様子で描かれていますよ(笑)
その吸血という行為だけにしても、この映画は「異なる二人の女性吸血鬼」の関係を楽しむ作品となっているのでしょう。
嘘をつき、他者から命を「盗む」ことで生き延びてきたクララと、嘘をつく事に葛藤し、吸血行為一つにしても独自の哲学を持っているエレノア。
どんな手段を用いても娘を守ろうとする母と、自分なりの生き方を求める娘。
単純な「吸血鬼モノ」や「恋愛モノ」といった括りにはできない、深い人間ドラマを感じる作品でもありました。
ところであの「地図」って何枚あるんでしょうね?やっぱり1枚なんでしょうか・・。どうしてクララが吸血鬼になった時、同盟はクララに持たせたままにしちゃったんでしょう。とりあげておけば、勝手に「創造」される事もなかったと思うのですが・・。
・・・ああ、なるほど!「新たに吸血鬼の仲間として迎えられた者が、地図を受けついでいく」という事なんじゃないでしょうか。そうなのであれば、イロイロと説明がつきますし納得できます。そうじゃないと、どんどん増えちゃいますしね・・・。

いいなー。ウチにも地図を持った吸血鬼が来ないかなー。
ぜひお仲間に入れていただきたい・・・。