名作『シティーハンター』をフランスで実写化した迷作『映画/シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』でネタバレ含む戯言を。これがまたあっちでもこっちでも高評価なうえに「ぜひ続編を!!」との声が挙がるほど。
パッと見はトホホなC級作品、しかし侮るなかれ。原作を知らなくともそれなりに楽しめますし、ファンであればなおさら面白い。作中、これでもかと盛り込まれた原作へのリスペクトがたまらん作品ですぞ。
シティーハンター THE MOVIE
史上最香のミッション
2019年 フランス
キャスト:
フィリップ・ラショー
エロディ・フォンタン
タレク・ブダリ
ジュリアン・アルッティ
ディディエ・ブルドン
ジェロム・レ・バンナ
監督:フィリップ・ラショー
脚本:フィリップ・ラショー
原作は北条司の漫画『CITY HUNTER』
ネタバレ無しのあらすじ
無類の女好きながら探偵・ボディガード・殺し屋まで請け負う名うてのスイーパー、冴羽遼(字幕版での名はニッキー・ラーソン。俳優はフィリップ・ラショー)と、その相棒を務める槇村香(字幕版ではローラ・マルコーニ。俳優はエルディ・フォンタン)。
今回彼らに舞い込んできた依頼は、その香りを嗅いだものを虜にしてしまう『キューピッドの香水』を守るという役目。
・・・だったのだが、何者かの襲撃により早々にキューピッドの香水は奪われてしまう。しかも二人は香水の効果を試していた最中で、48時間以内に解毒剤を使用しないと効果は永遠のものに。
果たして無事に香水を奪還できるのか!?
・・・といった内容の原作愛に溢れた作品。
海外実写化で戯言
日本の漫画を海外で実写化!!と聞くと、どうしても『アレ』が頭に浮かんでしまい嫌な予感しかしない方も多いかと。
ええ、そうです。アレです。
当時人気絶頂だった国民的マンガをハリウッドで実写映画化したものの、映画史に残る産業廃棄物が出来上がってしまった…というアレですな。
見ました?私はあまりのつまらなさに初回は途中で鑑賞をやめ、後日再チャレンジするもやはりダルくて途中停止。再々チャレンジでどうにか完走しました。もちろん評価は「クソ以下」で、ネタとして見る以外に価値を見出だせません。
これは海外制作だけに留まらず日本国内で実写化する際にも言える事なのですが、『原作のキャラや設定をベースとし、独自の設定や表現を盛り込む』という実写化スタッフの余計なやる気は、原作のファンとしてはマイナスになることが大半。いいから大人しく原作をなぞってろ、余計な主張すんな…てなもんですな。
その点、今回の『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』は実に素晴らしい。監督・脚本・主演を務めるフィリップ・ラショーは幼少期から熱烈なシティハンターファンというだけあり、美術もシナリオもセリフも演技も、ほぼ原作の雰囲気そのまんま。
前述したように『この人気作を私の表現でさらに魅力的な作品にしてやろう!』などと、勘違いした監督の手にかかると単なる自己満足のクソ実写化になりがちですが、フィリップ・ラショーはあくまでも『シティーハンターという作品の魅力を忠実に伝える』という役目に徹しているのが素晴らしい。
結果、非常に完成度の高い作品が生み出されたわけです。これは国内における実写化でも見習っていただきたいですな。
ちなみにこの『シティハンター』という作品はコレが初の実写化というわけではなく、過去に中国と韓国で実写化されています。
こちらが1993年、香港で実写化されたシティーハンター。主演はジャッキー・チェンで、なんと後藤久美子も共演。
嘘か本当か「ジャッキー・チェンって、シティーハンターの冴羽獠に似てるよね?」というどうでもよい話から実写化につながったらしく、中身もまさにどうでもよい仕上がり。『設定は原作通りだけど中身はほぼ別モノ』という、実写化の王道とも言える映画に仕上がっております。
そして韓国のほうはというと…
ぐえー。パッケージからすでにサランヘヨな雰囲気ですな。2011年から全20話でドラマ化された作品となります。
こちらは中国版以上にヒドく、登場人物から設定に至るまで全くの別モノ。もはや「たまたまタイトルがカブっただけ」のレベルで、シティーハンターへの愛など欠片も感じられません。まぁよくある便乗パクリ作品の一種ですな。
デラックスすぎる吹き替え版
本作の吹替版は単なる吹き替えではなく『デラックス吹替版』と銘打っているだけあり、非常に豪華。
日本アニメ版で冴羽獠と槇村香の声優を務めた『神谷明と伊倉一恵』は、吹き替え版では『山寺宏一と沢城みゆき』に変更されているものの、神谷さんも伊倉さんもスペシャルゲストとして登場。
さらに字幕版では特に笑いのなかったセリフを『らんま1/2』や『キャプテン翼』など、日本の有名漫画を匂わせる独自セリフに変えている部分が多数あり、笑いの面でもデラックス。
さらにさらに、アニメ版シティーハンターのファンだった方には外せない『GET WILD(TM NETWORK)』をエンディングテーマにしてくれるという神仕様(字幕版は別曲)。終幕際にイントロが流れてくるだけで、嫌でもテンション上がってくるじゃないですか。
わたしゃ洋画は何が何でも字幕派。吹き替えで観るくらいなら観ないほうが100倍マシだと思う人のですが、今回はせっかくなので『字幕版』と『デラックス吹替版』両方を鑑賞。
やはり純粋に『洋画』として考えれば、日本人声優の芝居がかった演技はうんざりしてきますし、字幕で読んだほうがセリフもストレートに入ってくる。しかし前述したネタ要素の追加やエンディングのゲットワイルドが素晴らしすぎるため、甲乙つけがたいところ。
正直この映画だけに関しては、人に薦めるならば圧倒的に吹き替えのほうがおすすめと感じました。
(個人的にはやはり字幕のほうが良いですが)。
続編は?
フランス本国では高評価、そして日本でもここまで評価が高いとなると、どうしても『続編』に期待する人も多いかと。
冴羽獠の吹き替えを担当した山寺宏一氏も「ぜひパート2ができたら良いなと思っています」と意欲を示しているものの、残念ながら今のところ続編の情報は全く無し。
ただし、フィリップ・ラショーが弟と共に来日した際の会見で「続編を作るならば『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』(2019年・日本で公開されたアニメ映画)を意識したい」とコメントするなど、続編制作を視野に入れている様子が伺えます。
原作者の北条司氏を含め、日本のシティーハンター関係者も口を揃えて絶賛していますので、続編もありえるのではないかと…。
個人的には「ちょっと売れるとすぐ続編の話」という風潮は嫌いですし、せっかくの完成度の高かった良作を続編で台無しに…というパターンが多いため、あまり賛成はできませんけど。
個人的な戯言感想
…というわけで、ぶっちゃけシティーハンターは好きではないのですが、それでも非常に面白かったこの『映画/シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
もちろんコメディとしても面白いと感じましたが、それ以上にこの監督のシティーハンター愛に感動し、表現や脚本の秀逸さにただただ感心してしまいましたよ。脱帽ですな。
人によっちゃー「香役の女優さんがブサ…いや、ちょっとアレかな…」と思うかもしれませんが、この方(エロディ・フォンタン)は主演フィリップ・ラショーとプライベートでもパートナーの関係らしく。
うーむ、それならば仕方ない。二人で末永くお幸せにどうぞどうぞ。私は遠慮しておきます。
…っと、1つ言うのを忘れていました。
なんと本作には格闘技好きならば知らない人はいないであろう、ジェロム・レ・バンナも出演しております。
いやー、いきなり登場してきた時はそりゃもう衝撃。歳とったね、レ・バンナ。