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今回は隠れた名作が多い制作会社、ブラムハウスによるAmazon Original作品『映画/ノクターン』で考察とネタバレの戯言。

人によって感想も解釈も激しく差が分かれる作品ですので、あくまで『個人的な考察と解釈』という事でよろしく哀愁。そして予想外に長くなってしまったので、文章読むのが好きな人向けでよろしく哀愁。

ノクターン


2020年 アメリカ

キャスト:
シドニー・スウィーニー
マディソン・アイズマン
ジャック・コリモン
ブランドン・キーナー
ジュリー・ベンツ
アイヴァン・ショー

監督:ズー・クアーク
脚本:ズー・クアーク

ネタバレ無しのあらすじ

幼少期からピアノ演奏者の道を歩んできた双子の姉妹、ヴィヴィアン(マディソン・アイズマン)とジュリエット(シドニー・スウィーニー)。

仲の良かった二人だが、高校生になるころには『美人で明るくピアノの腕も抜群の姉ヴィヴィアン』と『その陰で陽の当らない妹ジュリエット』といった状況に。

姉に対するコンプレックスを克服しようと苦しむジュリエットに対し、ヴィヴィアンは余裕でお姉ちゃんヅラしながら彼氏とイチャイチャ。

ええい見てろ、もう悪魔に魂でもなんでも売ったるわ!エロイムエッサイム、エロイムエッサイム!!!

・・・といった流れで悪魔のパワーを借りてフハハハハハする内容かと思いきや、実はオカルト自体が暗喩という奥深い作品。

悪魔など存在しない

さすがはブラムハウス。

この『映画/ノクターン』も、ぺらーっと流し見で鑑賞すりゃ『B級オカルト映画』で終わってしまうでしょうが、のめり込んで考察してみると意外に奥深いのですよ。

まず最初に結論から言ってしまえば、

本作は悪魔モノでもオカルト映画でもありません。

いやいや、たしかにデスノート的な怪しいノートは出てきますし、悪魔崇拝の儀式を彷彿とさせる場面はありますし、なんかピカーッと光ったりホラーな描写があったりしますよ。ですが、冷静に客観的に考えれば『悪魔の仕業でしかない』という出来事は一切起こっていないのですよ。あくまで悪魔(シャレではない)を彷彿とさせる演出が多用されているだけで、起こる出来事は人間が人間として行動し、その結果が表れているだけ。

全ては芸術の道を進む人間に宿る『狂気』を可視化したものなのですよ。

ノートに関しては幻想でもなんでもなく実在しているのでしょうが、そこに描かれているのは悪魔が書いたルールでもなんでもなく、モイラという少女が生み出した狂気です。

音楽にせよ文学にせよ絵画にせよ写真にせよ、芸術というのは本気で向き合っていくと少なからず病むもの。

本作での『悪魔』という存在は、その心情をオカルトによって具現化したいわば暗喩のようなものであり、単純に『悪魔の話』と表面だけ見ているとB級にしかならんのですな。

決して『才能の無さを悪魔に頼ってどうにかしようとする二流音楽家の話』などではありません。

登場人物

…というわけで、深掘りは一旦置いといて登場人物から見ていきますか。

いやー、イイ。実にイイ。

映画を楽しめるかどうかのポイントとして『登場人物に感情移入できるかどうか』は非常に大事。言い換えれば『登場人物の気持ちが理解できるかどうか』によってクソにもミソにもなるのですな。

その点、本作は『音楽という芸術』に対し様々な視点の人物が登場しており、これがなかなか面白い。

わしも音楽ではないものの芸術家の端くれのような職業でメシを食っているので、「こういうタイプいるわー」「あー、こういうのもいるわー」と人物描写だけでご飯三杯食えますよ。

  • やればやったぶん伸びていき、プライドを推進力とする姉ヴィヴィアン
    (つまづくと荒れるタイプ。でもなんだかんだで諦めないタイプ)
  • コンプレックスと自信の無さで苦しみながら、登ろうとあがくジュリエット
    (大成功するか大失敗するかの二択タイプ。そして病むタイプ)
  • トップは獲れなかったが、そこそこの位置の栄光で自己確立しているキャスク
    (第一線から早めに逃げ、教える側にまわりたがるタイプ)
  • そこそこで道をあきらめ、そんなもんだと割り切って生きるロジャー
    (上を目指し続ける人間を否定したがるタイプ)
  • 多少他人よりも詳しいというだけで、まるで全てを知っているかのように振る舞う母親
    (音楽に限らずどこにでもいる勘違いタイプ)
  • 単純に「好き」だけでやっている、凡庸な彼氏マックス
    (おちん○んチャンスがあればとりあえず凸っとくタイプ)

…と、さらーっと見てもこのバリエーション。

全く芸術方向に縁のない人生の方にゃわからんかもしれませんが、ほんの少しでもそっち系をかじった方ならば近い人物像がいるのではないかと。わし?わしはおち○ちんチャンスがあればとりあえず行くタイプなのでマックスです。いえ、嘘です。

そして『どのタイプか』によって、この映画に対する感想も変わってしまうのですな。


ラストの解釈と考察

本作は評価だけでなく、鑑賞者によって結末すら解釈が異なってくる作品。

バカ正直に『単なる悪魔モノ』として見ていれば、最後は因果応報の結末と映るでしょう。人並外れた才能の対価は自らの魂ってのは悪魔モノではド定番。ジュリエットは最終的に魂を奪われたのでした・・・と。

というか、この映画を観てそんな結論になる方います?それじゃつまらんでしょ。あ、だから低評価も多いのか…。

本作は途中に何度か『夢』『幻想』『幻聴』といった表現を用いており、これが比喩や暗喩であると同時に現実の現象としても描かれているため、最後の『理想』『現実』に二極化した映像を『どっちがどっちなんだ』と考えさせられる結末になっているのですな。

ストレートに解釈すれば『無事に演奏を終え、スターとして賞賛を浴びるジュリエット』は死の間際に見ている幻想であり、現実の彼女は意味ありげだったオブジェの上でヤベぇ姿を晒した状態。

これは前述したように決して悪魔が云々ではなく、思い悩むあまり狂気の域に突入してしまったジュリエットが辿った悲しい結末です。

作中で姉彼のマックスが言っていたじゃないですか、『論理的に考えよう。モイラは悲劇に見舞われ錯乱した。そしてキミ(ジュリエット)はこの絵を予言と思い込んでいる』と。まさにそれこそが真実でしょう。占いや予言というものは捉え方次第で『符合している』と後からこじつけられるもの。これは歴史上の予言者やそこらへんの占い師にも言えることですし。

・・・しかしそうなると『落下したジュリエットの周囲の人間は、彼女に全く気付いていない』という描写が問題になってくる。あらやだ、なによこれ。

これが最後の『理想』『現実』が逆なのではないか…と迷わせるポイントなのですな。もしかしたらそのどちらも現実とは異なる可能性もあります。

さらにブッ飛んで考察してしまえば、あるポイントからはジュリエットに関する出来事の一切が現実ではなかった…という解釈も。特に怪しいのはヴィヴィアンが落下したあたりでしょうか。あのへんから急に描き方が雑になってきますし。・・・まぁ尺が足りなかったんでしょうけど。

ラストに関しては『これが答えです』というのではなく、あくまで個人的な感想として、

落下したジュリエットこそ現実であり、賞賛を浴びる姿は走馬灯のような幻覚

・・・と私は解釈しました。そして彼女にもモイラにも悪魔など介入していない、と。

悪魔や神というのは人間の在り方や生き方を具体化したものであり、それが心に存在している人間もいれば存在していない人間もいる。決して超常的なものではなく、人間が生きるための教訓や指針をよりわかりやすく表現したもの。

前述しましたが本作での『悪魔』は第三者的な存在ではなく、登場人物の苦悩を可視化したものと解釈しています。

じゃあヤベェ状態のジュリエットをスルーしてる通行人はなんなのよ!…と、きますよね。アレは・・・うーむ。

ジュリエットは結局のところ、一人で空回りしている人生だったじゃないですか。明るい姉、応えられない親の期待、寄り添ってくれる人も無く、自分で自分を縛るようにしてピアニストの道にしがみついてきた。

「私は彼氏もいないし○○○経験もないのよ!来年は〇〇〇をする平均年齢を越えるの!全て捨ててピアノに打ち込んでいるのよ!」

・・・とか言ったって、ぶっちゃけそれも独りよがり。

つーかたった1年ぽっち平均年齢を越えるっつーだけで『全て捧げた』なんて片腹痛いわ。そういうセリフは40過ぎまで純潔を守り、ピアノの角にこすりつけてハァハァやってきた場合に吐きなさい。

そんな彼女の孤独な人生を表現した・・・ってのはどうでしょう。

極端な話、周囲の人間は彼女が成功しようと性交しようとピアノに何を賭けようと、さほど影響ないのですよ。

それでも自分という存在を確立するため、空回りしながら苦しんで果てた一人の芸術家。そんな悲しい姿と捉えてはどうでしょうか。…ダメ?それともピアノでハァハァのくだりがダメ?堅物だなぁアンタも。

超個人的な戯言感想

・・・というわけで。

正直なところ、鑑賞前は「どうせB級で屁が漏れるようなホラーだろ?」という印象だった『映画/ノクターン』

ところがどっこい、なかなか深くて面白い作品じゃないですか。

たしかにパンチは弱く人物の心情描写も明確ではないので、エンターテイメント的な映画に慣れた人からすりゃ「ヌルい」の印象があるでしょうが、本当の意味で芸術を追い求める苦しさや葛藤を理解できる人であれば、楽しめる部分が多かったのではないかと。

どうでも良いですが洋画のムフフシーンにありがちな『始まったと思ったら即IN!』ってどうなんですかね。ちと早すぎない?

しかも果てるのまでめっちゃ早かったよね、マックス。若いなぁ。