第二次世界大戦中、シベリアの強制収容所から逃れる一行を描いた『映画/ウェイバック-脱出6500km-』でネタバレ戯言。その過酷な道程描写と「事実に基づいた話」という事で国内外問わず評価の高い映画です。そう、評価の高い映画なんです。
うーむ、またこのパターンですか…。
ウェイバック-脱出6500km-
(原題:The Way Back)
2010年 アメリカ・アラブ首長国連合・ポーランド合作
主なキャスト:
ジム・スタージェス
コリン・ファレル
エド・ハリス
シアーシャ・ローナン
マーク・ストロング
監督:ピーター・ウィアー
脚本:ピーター・ウィアー、キース・クラーク
ポーランド人のスラヴォミール・ラウイッツの実体験による書籍「The Long Walk」が原案となっているが、真偽のほどは怪しいとされている。
ネタバレ無しのあらすじ
1939年、ポーランドはドイツとソビエト連邦の侵攻によって国土が分断。
ポーランド人の兵士ヤヌシュ(ジム・スタージェス)はソビエト連邦占領地域にてスパイ容疑で逮捕され、シベリアの強制労働収容所へ送られる事となる。
収容所での過酷な環境の中、ロシア人俳優カバロフ(マーク・ストロング)に脱走話を持ちかけられたヤヌシュは、収容所を脱出し自由を求めてモンゴルを目指す決意を固める。
アメリカ人であるミスター・スミス(エド・ハリス)や犯罪集団ウルキの一員ヴァルカ(コリン・ファレル)など収容所内の仲間達とともに脱走したヤヌシュは、集団農場から脱走したという娘イリーナ(シアーシャ・ローナン)も加え国境を目指すのだが・・・。
・・・・といった内容の作品。
書くのを躊躇う映画・・・
この「映画/ウェイバック-脱出6500km」は、大手批評サイトRotten tomatoesでは74%の支持率、日本国内の感想を見ても概ね高い評価が連なり、「とても感動した」「泣いた」という方も。
いやー、本当に申し訳ない。変人の戯言として受け流してもらって良いのですが、個人的には・・・
楽しかったのは脱出まで。その後は雰囲気だけのクソ映画。
というのが正直な感想。点数で言えば8点。10点満点?いえいえ、100点満点中の8点ですよ。
ちょっと待った!文句を言いたいのはわかりますが、まずは深呼吸して落ち着いてくださいな。
私も嫌なんですよ、このパターンは・・・。
最近の人って「自分がつまらんと思うものを絶賛している人」だったり「自分が絶賛するものをクソ呼ばわりしている人」を見ると、とにかくムキになって反論したり批判したり、過剰に否定しようとするじゃないですか。ゲームレビューの『高評価付けてるヤツは全員サクラです!』とかね。
もちろん実際にサクラを使った評価や口コミもあるでしょうが、自分が気に入らない意見は全て偽りとしか見れず、親の仇のように喚き散らす人間の意見のほうがよっぽど参考にならんですよ。
ここ『映画で戯言三昧』でも皆様が高評価している映画を「つまらんかった」とか書くと、そりゃもうアレな輩が湧くので面倒臭いんです。
「じゃあそんな事書くなよ」と言われそうですが、それじゃただの「なんでも褒めるクン」じゃないですか。
人がなんと言おうと、自分が好きなものは好き。嫌いな物は嫌い。価値観は他人が決めるものではありませんし。
脱出650kmくらいまでは良かった・・・
最初のうちはそれほど悪くなかったんですよ。収容所内の過酷な環境は見ていて苦しくなるほどでしたし。
脱出直後の厳しい寒さと闘いながら進む姿、そしてどうにか極寒地域を抜けて安堵感が芽生えるものの、飢えと衰弱との闘いが続く展開。
そのあたりまでは多少不自然な点があっても「まぁ映画だから」と納得できる範囲内に収まっており、十分満足できていたのです。
・・・が、イリーナが現れたところで嫌な予感が。
もうそこからは「いかにもっぽい演出で雰囲気を出そうとしている、漫画みたいな映画」に早変わり。もはやリアルさもクソもない。
なにせ長期間収容所に入れられていた男達が数人。そこに若い娘、ですよ。
水浴びしてる彼女をチラチラ見ながら、ちょっと照れてみたり・・・おまえら中学生かっ!!!
もっと極限状態での人間のエゲつなさを表現してくれると期待していたのに、「わーい可愛い娘がパーティに入ったよ。おかげでみんな打ち解けてきたよ」って・・・安っぽいゲームですかい。
追い打ちをかけるように繰り返される『ありふれた風景写真のようなカメラワーク』と『一見それっぽいが、かなり非現実的な展開』のオンパレード。
ピュアな子供ならば「すげぇ・・・リアルだ・・」と感じるのかもしれませんが、わたしゃ屁も出ませんでした。
別に見ていて苦しくなるような凌辱プレイを行え、と言っているわけではないんです。ただあまりにも嘘くさい綺麗ごとすぎて、この作品の内容にはまるでそぐわない気が…。
やはり「何を期待するか」が大事
前記事の「映画/グランド・イリュージョン」もこのパターンでしたので、2連発で「高評価映画をクソ呼ばわりする」になってしまいました。ホント、世間の批判が恐ろしい。
映画って「その作品に何を期待して観るか」が本当に大事じゃないですか。それが違うだけで評価は180度変わってしまう。
私が上記の「映画/グランド・イリュージョン」を観た時は『難解かつ緻密なリアルトリック』を期待して観てしまったのが失敗。アレはそういう映画ではなく『浅いトリックでビジュアル重視』の作品ですから。
今回の「映画/ウェイバック-脱出6500km-」も『過酷な環境下でのリアル。極限状態で描かれる人間の本性』を期待して観てしまったので、そりゃもう大失敗。
そういえば冒頭のヤヌシュの尋問シーンで「拷問を受けた」という設定の奥さんが連れてこられていますが、ちょこっと髪が乱れている程度・・・。…はい?これで拷問を受けた設定なの??と思いましたもの。
そのヌルい表現を見た時に「ああ、これはそれっぽい雰囲気だけ味わうだけの、綺麗ごと映画なんだな」と気づけばよかったのですが・・・カバロフ役のマーク・ストロングと、ミスター・スミス役のエド・ハリスの雰囲気に騙され、ガチリアル系を期待したまま観てしまったんですよね…。
人それぞれ・・という事で
とはいえ、高い評価を得ている映画ですし、この作品を絶賛オススメしている映画ブログもあります。
「面白い」と思う人には面白いのでしょう。そういう方の感性を否定する気は毛頭ありません。
あくまでも「私はそう感じた」というだけの話。
ただ「自然の厳しさも知らない引きこもりのクセに、知ったふうな事言うなや」と思われるのだけは回避したいので、ちょこっと弁明させてもらえば・・・私は仕事柄、写真撮影しながら山野を延々と徒歩で移動しますし、元・陸上自衛隊員でもあります。
テントなど使わず、山中でゴロ寝で夜明かしする事も何度もありますし、雪山を越える事もあります。決して自然の厳しさを知らないわけではありません。・・・といっても、さすがに6500kmも歩いた事はありませんけど(汗)
実話?
なお「この映画は実話です」みたいな雰囲気で作られいますが、かなり脚色されている部分も多く、そもそもの原案となったポーランド人、スラヴォミール・ラウイッツの実体験についても「真偽のほどが疑わしい」とされているそうです。
監督のピーター・ウィアーも映画そのものは「本質的にはフィクションである」とコメントしています。
結局のところ・・・
日本人って、勧善懲悪モノ好きですよねぇ。「やっぱり最後に正義が勝つ映画は楽しいよね」みたいな感想はよく聞きます。
この「映画/ウェイバック-脱出6500km-」のような設定の映画でも、やはり追い込まれた人間の本性をさらけ出すような描き方は好まれないんでしょうなぁ。普通の感性の人は綺麗ごとが好きだもんね。この映画はこれで正解なのでしょう。
そういえば、狼から肉を奪った彼らが狼と同じ姿で肉に群がる・・・という表現はかなり良かったですな。
そして映画なので仕方ない事ではあるのですが・・
過酷な道程のはずなのに、最後までぷっくらしているジム・スタージェスのアゴとお腹が一番リアル感台無しでしたな(笑)