【当ページには広告が含まれています】

「どうしてフランス映画はこうなのよ!?」とついて行けない人続出の『映画/2重螺旋の恋人』でネタバレ…と言いたいところですが、これがまた考察や解説が非常に難しい作品でして…。

2重螺旋の恋人


2017年 フランス・ベルギー

キャスト:
マリーヌ・ヴァクト
ジェレミー・レニエ
ジャクリーン・ビセット

監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン

ネタバレ無しのあらすじ

原因不明の腹痛に悩まされていたクロエ(マリーヌ・ヴァクト)は、婦人科医の紹介でポールという精神分析医(ジェレミー・レニエ)の元を訪ねることに。

優しく穏やかな人柄のポールと接する事で元気になっていったクロエは、医者と患者という関係を超えてポールに惹かれていく。そしてポールもまたクロエに対し患者以上の感情を抱いていった。

その後めでたくポールと同じ屋根の下で暮らす事となったクロエ。しかし彼の私物の中から『名字が違うパスポート』を発見してしまい…

・・・といった流れから、予想の斜め上をいく展開が連発のド変態級・四次元殺法作品。

7つの罠を見抜く必要はない

えー…何から書きましょう。もうホント、フランス映画で戯言を書くのはいつも気が重いです…。

とにかく『何が現実で何が妄想なのかわからない』という作品になっており、しかもそれらに『答えはない』と監督が公言してしまっていますから。

公式サイトでは専用動画まで用意して『オゾン監督が仕掛ける7つの罠を見抜け!!』などと煽っているものの、この映画は決してそういう作品ではありません。『映画/シャッター・アイランド』のような内容を期待してはダメです。

日本人は何に関してもすぐに『これが唯一の正解』というものを決めたがり、『見る人の数だけ答えがある』『真実は一つではない』では納得しない面倒臭い民族ですので、この映画のように「答えのない作品」ってのは実に相性が悪い。

そこをどうにか食いつかせるため、こんな「7つの罠」なんて日本人ウケしそうな宣伝にしたのでしょう。

…という事で、その煽り動画もご紹介しておきましょう。

  • 原因不明の腹痛
  • 正反対の双子
  • 外見の変化
  • グロテスクな美術館
  • 螺旋階段と猫のブローチ
  • 謎の隣人
  • 全てを知る家

…で、7つの罠。ここで多くの方は、

問①『原因不明の腹痛』=答『寄生性双生児』

といった具合に全てに答えを求めるのでしょう…って、いきなりネタバレの答えを書いてしまいました(笑)

たしかにこの7つの項目は物語において意味がありますが、7つ全てに日本人が求めるような「明確な答え」があるわけではありません。何度も言いますが、見破るとか見抜くとかいう話ではないんです。むしろそういう視点で見てしまうとスッキリしない作品になってしまう。

ホント、こういう宣伝のやり方はフランス映画が持つ芸術性を歪めるのでやめていただきたい。

「見抜け」とか言っておきながら、小さく『正解はないよ』というオゾン監督のセリフを付けるという逃げ道作りも姑息です。要するに日本人の習性を利用した撒き餌ですな。

『2重螺旋の恋人』公式サイト


ネタバレ含む考察

さきほども申し上げたとおり、本作は現実と虚構がシームレスに繋がっている構成。それゆえに「どれが現実?これは現実?」と判断に困る要素が盛りだくさん。

しかし結論から言ってしまえば…

どこまでが現実で、どこからが妄想か。
それを明確に分けようとする事自体がナンセンス。

…というのがこの映画の結論。

しかしそれではこんな辺鄙な戯言ブログにまで足を運んでいただいた意味がない。無粋と言われようとも、あえて「答え」を求めて考察してみようじゃないですか。

細かい事柄を追うと収拾がつきませんので、『何が現実で、何が妄想か』という分け方で考えてみます。

現実と思える要素

本作の監督フランソワ・オゾン曰く『言葉は冒頭の10分に集約させ、後は映像表現に徹した』との事ですので、クロエとポールが初めて出会い、カウンセリング中に口にするセリフに真実が集約されている…という事ですな。

興味深いのはそこでの『想像上の双子の姉がいた。私を守る分身』というクロエのセリフ。もうコレが全てと言っても過言ではない。

そして終盤、母親が病院へと駆けつけ、腹痛のネタバレとなる『寄生性双生児の存在』が明かされる部分も普通に現実かと。

…となると、その間の出来事の多くは妄想と疑ってかかって良いかもしれません。

虚構と思える要素

とりあえず最初に言わせて下さい。『ポールと営んでいる最中にルイが入ってきたと思ったら、男同士でキス!…かーらーの3P突入!…さーらーにクロエまで分裂!!』のくだりは4000%幻覚です。これが現実だったらわたしゃ布団かぶって寝ますよ。

この映画の虚構部分は別の虚構を暴く手がかりとなっており、一つの嘘が判明すると芋づる式に他の嘘も繋がってくる…というのが面白いところ。

まず公式での謎⑦『全てを知る家』とされている「ポールの同級生・サマンサの家」、これは現実ではないでしょう。

後ほど判明することですが「サマンサの母親」はクロエの母親ですし、帰るクロエの後を追ってくる車、これもクロエの母の車と同じ(ナンバーも同一)です。さらに言えばクロエが車に向かっている時はこの車が無かったのに、乗り込むシーンで急に現れています。

サマンサの顔がクロエの顔になった…というだけでなく、この家の存在自体が虚構。…となると、ポールの私物からサマンサの手紙(と新聞記事・拳銃)を発見したシーンも疑わしくなってきます。
(手紙は本当で、それにより「サマンサの家に行く」という妄想に囚われた可能性もあります)

そしてその母親が現実に現れるシーン(病院)で、彼女の襟元にはルイがクロエに渡した『金の猫のブローチ』と同じものが。ということは…ルイがこれを渡すシーンも虚構。つまり彼がポールのフリをして美術館を訪れたのも虚構。もっと言えばこの美術館勤務自体が虚構ではないかと私は思います。

美術館で見られる、その時々のクロエの心情を表しているかのような造形の美術品。謎④『グロテスクな美術館』は彼女の深層心理を表現している空間なのではないかと。

そういった形で細かい虚構から関連させていくと、そもそも『ポールの双子の兄、ルイの存在自体が虚構』であると解釈できます。

同じ街で看板上げて開業しておきながら、ポールの友人の医師たちが全く彼の事を知らないというのも不自然。いつ訪れても他の患者もなく、自由にカウンセリング室に入れるというのもおかしな話です。

望まれない子であった事や母親に愛されていなかった事、それらが彼女を歪ませ、さらに腹の中にいる「寄生性双生児の姉」もクロエの精神になんらかの影響を与え、そこに『名字の違うパスポートを見てしまった』という事で妄想は膨らみ、『ポールの双子の兄との肉欲にまみれた関係』という形へと発展したのでしょう。

冒頭に「これ以上痩せたらまた生理が止まりますよ」というセリフがあるので、ホルモン的なバランスも影響しているのかもしれません。女性は男と違ってそのへんが繊細ですから。

似たような事が我々もあるじゃないですか。たまたま彼女の手帳が開いているのが見えて、なぜかカレンダーにハートマークが付いている日を発見してしまい、

『他の男とデートした日か!?いや、もしかしてそれ以上の事をしちゃった日にハートマーク付けてるのか!?』

…とか考え、勝手な妄想で相手の男を決めつけたり、浮気している姿が頭から離れなかったり…って事が。

おそらくパスポートの名字が違うのはポール本人が言ったとおりの理由で良いのではないかと。本当であれば変に勘ぐる必要すらなかったのでしょう。メンヘラ娘はそういうトコ疑り深いよね…。
(「名字の違うパスポート自体が妄想」ではないと私は思います)

なお「彼女が腹に双子の姉の名残りが存在すると知っていた」とは私は思いません。これを事前に知っていないと話の辻褄が合わない…と解釈した方もいるかもしれませんが、あくまでも無意識レベルで影響していた…というのが私の解釈です。

変態に正解は無い

どうしてこうフランス映画って美しくてグロくて芸術的でモヤモヤするのでしょう。そして何気に意味不明という。

何度も申し上げますが、この映画に『100%の正解』はありません。

私の解釈が正解だとは言いませんし、異なる解釈の方が間違っているとも思いません。たまにはそういう映画も良いじゃないですか。

だって冒頭にいきなりの『膣鏡で中見せ』ですよ?周囲にはボカシが必要なのに、内部はOKって…(汗)

さらに男同士でキスさせてみたり、女をシャム双生児のように分裂させてみたり、男の尻をペニバンで掘ってみたり、その際にしっかりローション塗ってみたり、喘ぐ口内にズームインして声帯パクパクですよ?

こりゃもう考察や解釈なんてどうでもよくなるほどの

『ド変態監督による、ド変態映画』

じゃないですか。

もはや「私の考察は…」だの「いや、私の意見としては…」だのやっているのがバカらくなるほどの変態プレイ映画ですよ。おそらく監督は撮影中、常時勃起していますよ。

…とうわけで、えらく半端でしたが私個人としての勝手な戯言でした。

しかし「隣のおばちゃん」の存在がモヤモヤするんですよねぇ。そこに明確な意味を見出せなかったのが心残りです…。