もはや「映画」という括りにして良いのかすら迷う『映画/八つ』(原題:Eight)、強迫性障害の女性をただひたすら見続ける内容になりますので…ネタバレ解説などといった話が書けるような作品ではない。
「わかる人には痛いほどわかる」しかし「わからん人にはまるでわからん」そんな作品です。
似たタイトルで『8 Eight』という別作品や『ヘイトフル・エイト』があるので間違わぬように。『八ツ墓村』でもありません。
八つ(原題:Eigtht)
2016年 オーストラリア
キャスト:
リビー・マンロー
監督:ピーター・ブラックバーン
脚本:ピーター・ブラックバーン
ネタバレ無しのあらすじ
強迫性障害のサラ(リビー・マンロー)の苦悩をただただ見させられる映画。
・・・という、当ブログ史上最短あらすじ説明で済む作品。
注:予告編動画は英語版です
強迫性障害とは?
まずは本作に登場するサラが抱える『強迫性障害』という病を知らない方のためにご説明を。
専門家ではないのでかなりざっくり解説ですが、私もこの病(ごく軽いもの)を抱えていた過去があったりします。
強迫性障害とは?
『強迫観念』と『強迫行為』に囚われる心の病。
考えたくないのに考えてしまう。自分の意思に反して不合理な考えが浮かんでしまう…といった『強迫観念』
それに付随して特定の行動をおこなわずにはいられない『強迫行為』
「何度洗っても不潔に思えて、手を洗う事をやめられない」
「鍵がしっかりかかっているか不安で何度も確かめてしまう」
「一見無駄に見えるような一定の手順を踏まないと物事が進められない」
…など、症状は人によって様々。
タイトルでもある「八つ(8)」はサラの中での確認行動の数字であり、玄関の鍵の確認は8回。何かを開けるのも8回。卵を割るのも8回。
こういった「特定の数字に異常にこだわる」というのも強迫性障害の症状の1つでもあります。
『映画/マッチスティック・メン』でニコラス・ケイジが窓も鍵も「1、2、3・・・」と三回繰り返していたのもコレですな。
この病気って、わからない人にはホント理解してもらえないんですよね…。
本作に対する感想でも「不潔が嫌いなはずなのに行動が矛盾している」「もしすぐ逃げないと殺されるとしても、同じように繰り返す?しないでしょ?」など、屁理屈こねてあーだこーだと病気の症状を否定している方はいますが…そういうもんじゃないんだよっ!理屈じゃないんだよっ!
この強迫性障害の苦しさに「共感できる」もしくは「理解してあげようとする」方であればこの映画は引き込まれる内容なのですが、「無意味でバカらしい」と考える方にとってはただただ意味不明でダルい作品となってしまうことでしょう。
映画史上初!身支度で尺半分!
当記事冒頭の映画情報(キャスト・監督等)はなんと5行。当ブログ始まって以来の短さです。
登場人物は配達員を入れても5人しかおらず、そのうち3人は声のみ。主演のサラ以外で唯一顔出しするジャニスも登場時間はほんの2~3分という、ほぼほぼ一人芝居状態ですから。
そしてあらすじ説明もたったの2行。これも当ブログ史上最短でした。
そしてこの映画はそれだけに留まらす…
サラが起きてトイレに行き、シャワーを浴び、ベッドを整える…というだけで驚異の25分経過!!
その後の身支度まで含めるとなんと…
約40分!なんと映画の半分が終了!
…という、映画史上類を見ない亀展開。
鑑賞開始早々にお腹が痛くなり、約30分トイレにこもって苦しんだ末に急いで戻り「ごめん、長くなっちゃった!…話どうなった?」と一緒に鑑賞している友人に質問しても「うん、いま主役の人が起きたトコ」で済むという(笑)
これを映画と見れるか否か
「強迫性障害とは?」の項でも書きましたが、この映画のサラの行動を「なにやってんの?意味なくね?」と思ってしまう人からすればとにかくダルい展開が延々と続く内容ですので、もはや早回しで見ても良いほど。いや、そういった方は見る価値がないと言っても良いかと。
水の注ぎ方も飲み方もやたら面倒臭く、「いいからはよ飲めっ!」とスリッパで後頭部をスパーン!と叩きたくなることでしょう。
しかしこれが強迫性障害に苦しむ人間のリアルなのです。
はよ飲め?んなもん飲めるならとっくに飲んどるわっ!!という悲しい現実なのです。
これがエンターテイメント色の強い作品であれば『実は父と娘は存在していなかった!』とか『外に出ると全ての謎が明らかに!』といった内容になるのでしょうが、そんなドンデン返しもありません。
注)作中、ジャニスの「もう忘れないと」というセリフがあるため、「父&娘を失ったショックで心の病になった。電話やドアの向こうの声はサラの妄想」という解釈をした方もいるかもしれませんが…本作は生々しいリアルをとことん突き詰めた作品ですので、私はそれは無いと思っています。
1時間以上、ただただサラが苦しむ姿を見続け、最後の最後に彼女が一歩踏み出した姿を見て終わる。
「サラがどうしてあの状況にあるのかが説明不足」とか「最後に外に出れた理由が明確ではない」とか言いたくなる気持ちも良くわかりますが、そこをぐっと抑え、彼女の大きな前進を讃えてあげましょうよ。
そしてなにがスゴいって、この映画は
80分間ワンカット
なんですよ。
起きてから外に出るまで一度たりともカメラは止まらず。終盤にちょっと間違えたら最初からやり直しですぞ。
この状態であの鬼気迫る演技を続けたリビー・マンローも讃えてあげましょう。
超個人的な戯言感想
…というわけで。
私個人の感想としては、これは面白いとか面白くないとかいう基準で測れない「非常に攻めた映画」といった印象。アリかナシかと問われれば「おおいにアリ」です。
配達人がクソい?だって彼も仕事中なんですよ。旦那が冷たい?彼だっていつ解決するのかわからない問題を抱え続けてきたんですよ。相手の立場になって理解しようとすれば、サラも含めて誰ひとりとして悪くない。
どうして人間社会ってこんなふうになってしまったんでしょう…。
そんなやるせない気持ちを感じる切ない作品でした。
ただし…
ぶっちゃけ、映画としてはオススメしません(笑)